ショートショート:余命
とある放課後、「話したいことがあるの」と、彼女から家に招かれた。
ワクワク気分の僕を連れ、黙って自室へ向かう彼女。
横並びにベットに腰掛け、彼女はポツリポツリと言葉をこぼす。
全ての話を聞き終えて、僕は言葉を失った。
彼女は静かに泣いていた。
癌に侵された彼女の体は、もって半年の命らしい。
完全に陽が落ちた頃、見送るよと彼女は言った。
笑顔で手を振る瞳の奥には、恐怖と哀情が透けていた。
僕は力無く手を振りかえした。
「また明日」これが最後の会話になるとも知らず。
帰宅途中、僕は彼女との思い出を振り返っていた。
初めてのデートで行った水族館。
イルカショーではすごく興奮してたっけ。
夏休みに行ったピクニック。
手作り弁当が美味しくて美味しくて。
そして何気ない放課後の帰り道。
猫好きな君は、道中に必ずいる野良猫といつも遊んでいた。
思い出はそんなに多くない。
まだ付き合って1年ちょっと。
これから増えるはずだった。
目の奥に熱いものを感じる。
ようやく涙が溢れ出た。
溢れて止まらないその涙で、僕は視界を失った。
刹那、クラクションが轟き、強烈な光に照らされた。
「どうして、どうして…」
あぁ、彼女が泣いている。
テレビには真剣な面持ちのアナウンサーが、今日のニュースを読んでいる。
「昨夜8時頃、a市の交差点で17歳の男子高校生がダンプカーにはねられ、死亡しました」