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ショートショート:おもかげ

久々に実家へ帰ってきた。
丁度1年ぶりだろうか。
スライド式のドアが少し開きづらいのが懐かしい。
「ただいま」
中に入ると、実家独特のにおいが漂っている。
家を出るまでは気づかなかったにおいだ。
奥へ進み、居間へ入る。
家具、カーテン、壁掛けの絵画まで何ひとつ変わってない。
懐かしい空間に、僕の心は子供の頃へタイムスリップした。


エプロン姿で台所に立つ母。
電子レンジでじゃがいもを蒸しながら、ポテトサラダを作る準備をしている。
ピー
洗濯機が終わりを知らせた。
と、同時に手を洗い、洗濯物を干しにかかる。
忙しなく動き回る母を、僕はじっと眺めていた。
さすがに視線を感じたのか、母が言った。
「何をさっきからじろじろ見てんのよ」
「いや、何となく。お母さんが生きてるなーって、そう思っただけだよ」
「なに変な事言ってんだかこの子は。当たり前でしょ。母は強しよ。それより見てるくらいなら洗濯物干すの手伝って」
「はーい」

実家へ帰るといつもこの会話を思い出す。
3人の子供を抱え、母は毎日忙しそうに家事をこなしていた。
「いやぁ、懐かしいな。覚えてるか母さん?」
和室にいる母はただただ微笑んでいる。


今日は母の命日だ。

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