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詩たち

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2023年9月の記事一覧

詩「みかんのある部屋」

詩「みかんのある部屋」

20230925

買ったはずないものの匂いがする
部屋の中を見渡すとみかんが一つある
カビなどは生えておらず皮もハリがある
これは何処からやって来たものだろう

(たまに飲むスムージーに入れるオレンジは
 炬燵の上が似合うコイツとは違うし
 きちんと冷蔵庫の中で眠っているよな)
ぼんやりと考えながら皮を剥いて中を見る

中には小さな人間が入っている
歳はあまり変わらない
驚いて口を半開きにしてい

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詩「他人行儀」

詩「他人行儀」

20230921

行き場のない想いが
絡まっている場所で
一人だけなんにも
考えていないやつ

アイツが言っていた
合言葉を忘れて
今日も一人きりの
夜が過ぎてゆくだけ

あんなことがあった
こんなことがあった
語り合う人たちは
全員消えていった

想いは掠れてゆく
薄っぺらく伸びてゆく
それが似合う夜には
何もかもが苦くなる

合言葉を思い出し
一人が嫌になっても
あの場所には行かない
アイツ

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詩「赤と青と黄」

詩「赤と青と黄」

20230919

原色の夢から覚め 枕元を見ると
耳から流れ落ちた宝石がある
触れると砂に変わってしまうので
じっと見つめた後 人差し指を近付ける

瓶に砂を入れ 夢の数を数える
カラフルだが同じように見える
瓶を置いた棚が崩れて仕舞えば良い
そうすれば こんなことをせずに済む

顔を洗い 歯を磨いた後に着替える
口の中でミントの香りが弾ける
支度を終え コーヒーをいれてくつろぐ
その間はソファ

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詩「無色」

詩「無色」

20230913

プレパラートの上
透明な掛け布団をかけ
レンズが近づいて来たら
目を閉じて睡魔を探る

睡魔の正体が何かを
覗き込む瞳が理解する時
初めて溢れ出す感触が
部屋の中を埋め尽くす

白い壁の狭い部屋で
小さき対象物と大きな観測者を
一つの人間としてまとめ
睡魔という名の毛布で包み込む

対象物となるときには
誰かに会いたくなるだろう
観測者となるときには
孤独を愛でて時を過ごすだろ

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詩「プレイヤー」

詩「プレイヤー」

20230912

角砂糖のエースは大丈夫だと言った
その言葉が嘘だったことがわかるまで
世界の終わりが近づく頃に
捲られた腹に描かれている刺青

パンで出来た虚ろな目のジャックにも
彼は騙されて金を奪われた
ペラペラな証言を頼りにして
犯人に仕立て上げられた

岩塩のクイーンは何もせずに眠るばかり
寝息にまとうのは朝と夜の精霊
瞳を開けば見るものを粉々にした
彼も粉々にされた者の一人

チーズで

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詩「泳ぐ男」

詩「泳ぐ男」

20230912

油絵泳ぐ 男には
忘れた過去と 紙芝居
不確かなのは 今の場所
名画か何か 落書きか
キャンバスの肌 反射した
光を受けて 止めどなく
流れる涙 拭うため
潜水をして 溺れ死ぬ
油絵泳ぐ 夜のこと
彼の遺体の 絵画には
値段が付いて 売られたら
廃墟に飾る 老紳士
背泳ぎをして 生き返る
潜水をして 死に絶える
彼は生き死に 繰り返す
命の重さは 水滴だ
頭の中に 巣食う虫

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詩「ハイライト」

詩「ハイライト」

20230908

公衆便所の前のベンチに座って
落書き見ながら君とキスをした
時間がないから焦って舌を噛んで
ティシュを手渡す君の手が小さかった

改札から人が押し寄せてきて
あたりがぼやけて見えてきて
夜になってゆくのが耐えられなくて
誰かの煙草のにおいがしてきて

公衆便所の落書きを見ながら
ベンチに座って缶コーヒーを飲む
何年前の記憶だったのだろう
君なんて居なかったのかも知れない

改札

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詩「密閉」

詩「密閉」

20230906

吐息がかかるビニール袋の中で
彼はパチクリとしながら物思いに耽る
何故この中に居たいのだろうか
考えてもわからないことは捨ててしまおう

頭をもいでゴミ箱の中に入れれば
千切った重要な書類と生ゴミの間で
物思いに耽ることになるだろう
考え事は捨ててもわからないままだ

ビニール袋で出来た寝袋の中で
彼の身体は頭を抱えている
その中にずっと居たいのは
窓の外で強すぎる風が吹いてい

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詩「朝になるまで」

詩「朝になるまで」

20230901

喋りすぎた夜に
垂らした一滴の薬
枯れた声 ぼやける視界
朝になるまでは このまま

ソファに座りながら
鼻歌を歌っていよう
テレビの中で回り出す思い出
全てが遠く 懐かしくて

コップの中で 泳いでいる幻が
映そうとしている これからの景色
瞳をとじて眠ってしまおう
未来など望まない 過去など縋らない

悲しすぎた夏を
放した狭い部屋は
褪せた色に染まってゆく
朝になるまでは

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詩「旅人」

詩「旅人」

20230831

死んでも良いと思える時は
きっと正常な時計が回っている
死にたくないと思える時は
きっと異常な心拍数なのだろう

どうせ腐っていくだけだ
ならば綺麗に腐りたい
悪態をついたって良い
人に嫌われることなんて何でもない

それよりも自分を偽り
これで良いなんて思うことはないように
真っ直ぐ前を向いているだけ
その先に何かが見えなくても

生きていたいと思える時は
きっと異常な世界が

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