原爆詩集を読み返す・大江健三郎: 八月六日、原爆に襲われた地方都市広島の全体像である。あの閃光が忘れえようか 瞬時に街灯の三万は消え 圧しつぶされた暗闇の底で 五万の悲鳴は絶え 朝、大江さんのお母さんは海の対岸におそろしい光が燃え上がるのを見た。母がじっと黙っている姿を思い出す。
この詩集は広島の私達から全世界の人々、人々の中にどんな場合にでもひそやかにまばたいている生得の瞳への、人間としてふとしたとき自他への思いやりとしてさしのべられざるを得ぬ優しい手の中への精一杯の贈り物である。すべての人間を愛する人たちへの贈り物であると共に、人々への警告の書である。
序 ちちをかえせ ははをかえせ としよりをかえせ こどもをかえせ わたしをかえせ わたしにつながる にんげんをかえせ にんげんの にんげんのよのあるかぎり くずれぬへいわを へいわをかえせ 峠三吉 反核運動のメッセージを伝えている。自らも被爆者である作者が平和の決意を訴えている。