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『あのこたちは、どこに』④(小説)
カフェの大きな窓から日が射しかかり、テーブルの上に置いてあるファッション雑誌に目を落とすと雑誌が反射して少し眩しい。
藤田風海は、以前働いていた職場の同僚が、店に入って来て風海に気付かず奥の窓際のカウンターの席に座った様子をじっと見ていた。
私が作った、中年の男性に預けたアクセサリーをしていた。
一体どうやって彼女のもとに行ったのだろう?
一個一個丹精込めて作った品だ。一品一品がいとおしいのに
「あのこたちは、どこに」(小説)17
リノベーションされた家は一階は、貸しスペース。二階に賃貸住宅、三階に事務所で建てられた。
一階に各関係社と清水からも花が贈られ、飾られている。
「これで出来上がりました。また、不備なことがありましたら、ご連絡ください」一級建築士の清水はそう言って、藤田風海のところに挨拶に来た。
『あのこたちは、どこに』(小説) 16
ぼん、ぼん。
生温かい空気。暗闇の空。
割れるように音が身体の奥まで鳴り響く。
白い浴衣や紺のの浴衣、髪をくるっと巻いて髪留めをしている女性たちが、その音から離れて行く。小学生の子供が出店で買ったリンゴ飴を舐めながら母親と少し厳つい父親と一緒に歩いて帰るようだ。
自転車で来た高校生の男子たちは、女子の話でもしているのだろうか両足を地面につけながら自転車をこいでいる。
浴衣を着たカップルは
『あのこたちは、どこに』 (小説)15
店を出ると、夜の街は少し肌寒かった。大学が近いせいもあって、学生のグループが変に酔って少しふざけて声を荒げている。それを横目にサラリーマンたちが通り過ぎ、駅の改札口の方へと歩いている。
藤田風海は、腕時計を見ると、8時を過ぎたところだった。まだ飲みたらない思いで清水に、
「もう少し飲みませんか?」と訊いてみた。
「そうですね」と、清水は全く酔った顔もせず、
「この辺で、よく行く店を知ってるんで
『あのこたちは、どこに』*️⃣14(小説)
梅雨の中休みで、久しぶりの青空には白い雲が浮かんでいる。春の匂いがする優しい風は木々や草花を通り抜ける。
藤田風海は、一級建築士の清水洋平にリノベーションを依頼していた。
風海の事務所で、納期リスト確認しているとスマートホンが振動した。風海がスマートホンの画面を見ると清水からの電話だ。
「はい、藤田です。お世話になっております」
「こちらこそ、お世話になっております。間取りの最終確認をお願い
『あのこたちは、どこに』*️⃣13
新緑の葉が風で揺れている。優しい春の陽が新緑の葉に反射して眩ゆいくらいだ。鳥たちは、花や虫など食べれるものが、この季節になると多くあって、さえずる声もよく響く。
藤田風海は、一緒に仕事をしている勝間から、近くの空き家を買って、住居兼事務所兼貸しスペース兼賃貸部屋にリノベーションしてはどうかという案に賛成して、色々調べてある一級建築士にお願いすることにした。
連絡すると、
『あのこたちは、どこに』*️⃣12(小説)
イチョウの葉が黄色く色付き、道路脇の楓の枯葉が時折り風で飛ばされては、車が通りすぎてコロコロと舞っている。
藤田風海のアクセサリーは、「ファンリー」というブランドを立ち上げてsnsで紹介したり、デパートで展示してもらえたこともあって、右肩上がりに向かっている。
『あのこたちは、どこに』11(小説)
澄んだ、どこまでも青い空の下に雲を思わせるほどの真っ白いサツキが、葉の間からところ狭しと咲いている。
藤田風海は、マンションの2LDKの一室を借りて、「水仙」という名の団体から長身の高校卒業したばかりの女性の島川さんと無口な影の薄い大工だった花吉さんがここで働いてくれている。二人ともやや仕事の進み具合が遅いのには、風海も少し困っている。丁寧にはやってくれているので、風海は二人に対して「もっと早
『あのこたちは、どこに』🔟
「前進しないものは 後退していく」ドイツの詩人ゲーテの言葉だ。
藤田風海は、SNSで手先が器用な人、営業のできる人、デザイナー、企画事業関係の人に呼びかけた。が、一向にメールもダイレクトメールもなかった。
相変わらず手作りアクセサリーの教室は続けている。教室だけでは、生活していくにはかなり厳しい。そんな時、風海のもとにあるメールが届いた。ある団体が、単純な仕事であれば手伝わせてほしいというこ
『あのこたちは、どこに』9️⃣(小説)
「人生は自転車に乗るようなものだ。倒れないためには走り続けなければならない」と、かの有名なアインシュタインも言っている。
駅前の角の小さなスペースの店のものが全部、店と教室を手伝っていた端正な顔の中井くんと店番をしていた勝間さんが持っていって失踪したことはしょうがないと諦めよう。
アクセサリーの教室は、中井くんがいないのは残念がる生徒さんもいるが、続行出来ているので何とか頑張れたと、藤田風海は
『あのこたちは、どこに』8️⃣(小説)
ここのアクセサリーをつけると良縁になるという噂を何処かから藤田風海は聞くようになった。
材料費はそんなに高いものを使っているわけでも無いので値段もそれほどしない。そのかわりデザインで勝負したいと風海は思っている。
そんな昼下がり。高校生くらいの男子生徒がひとりアクセサリーを眺めている。
『あのこたちは、どこに』7️⃣(小説)
人が人を呼ぶというが、まさにそれで自分の作ったアクセサリーが、少しではあるが売れつつあった。この日も暖かい陽がさす正午過ぎに、二人の女性が現れた。
そっけなく品々を見ている。
その近くに、オシャレな美容室を営むチーフの弟が品々を眺め始めた。
「確か、ここよ。珍しく夫がね、私にって買ってくれたの」二人の女性のうち、一人が言った。
『あのこたちは、どこに』6️⃣(小説)
2月でも西陽があたると案外暖かい。しかし、日が沈むと藍色から漆黒の空へと変わり一気に気温が下がる。
駅前の一角の小さなスペースで自分の作ったアクセサリーを売っている。寒さに堪えながら店番をし、チマチマとここで藤田風海はアクセサリーを作る。スマートフォンの画面を見ると夜の8時ちょうどだ。
「こんなところに店、あったっけ?」サラリーマン風の30歳半ばくらい男性が、作業をしていた風海に話し掛けた。