『あのこたちは、どこに』6️⃣(小説)
2月でも西陽があたると案外暖かい。しかし、日が沈むと藍色から漆黒の空へと変わり一気に気温が下がる。
駅前の一角の小さなスペースで自分の作ったアクセサリーを売っている。寒さに堪えながら店番をし、チマチマとここで藤田風海はアクセサリーを作る。スマートフォンの画面を見ると夜の8時ちょうどだ。
「こんなところに店、あったっけ?」サラリーマン風の30歳半ばくらい男性が、作業をしていた風海に話し掛けた。
「はい。3日前から出店してます」作業をしている手を止めて風海が言うと、
「ふーん」とその男性は、並べられた品々を舐め回すように見ている。
しばらくその様子を風海は見ていた。
「ふーん。あっ、これ、うちの奥さんに買うわ」その男性が、星のペンダントを手に取り風海に差し出した。
「あっ、ありがとうございます」出店して初めて買って貰ったお客さんだ。
「ちょっと飲んで帰って、怒られないようにね」酔って顔の赤いその男性がそういうと、
「このペンダントを奥さんに渡して、こんなの私の趣味じゃないわ、なんて言われても心折れないでくださいね。もしお二人で出かける機会がある時、その時はきっと奥さんはそのペンダントを付けると思いますよ」
「そうかなぁ。まあいいや、ありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございました」
店をそろそろ閉めようと思っていた矢先のお客さんだった。
「ごめん、これ髪の長い人でもいけそうかな?」また別の男性が現れた。革ジャンを着た若い男性が風海に訊いた。
「そのピアスだったら長い髪からチラリと見えた時、可愛いと思いますよ」
「じゃあ、これください。ホワイトデーように」
「告白されたんですか?」包みながら風海が言う。
「まあ...はい」
「リングやペンダントよりずっと身につけてくれるかもです。そして鏡を見てそのピアスを見るたびにあなたを大切に思うと思いますよ。効果有りかもですよ」と言って風海はピアスの包みを渡した。
「ありがとう」若い男性がそう言って、笑顔で駅のホームへと向かった。
それにしても夜は冷える。手がかじかんで作る作業が辛い。誰かに店番をしてもらおう。
そして自分は、アクセサリーの教室を開こう。
後日、求人を出すと、若い女性のフリーターと、もとシエフだった若い男性からの希望者があった。