『あのこたちは、どこに』最終話
カフェの入り口の扉から入って来て、その男性だとすぐに分かった。
白いシャツに黒のスラックのズボンに黒い革靴の姿で現れた男性は、細身で長身、頬が少し痩けているせいか目の輪郭がはっきりしていて鼻筋も通っている。黒髪は、少し長めの七三分けで整えられていた。歳は27歳とすでに訊いている。
その男性は、藤田風海を見つけると、軽く会釈をして風海のテーブル席に近付いて来た。
お互い挨拶を済ませると、風海はアシスタントの仕事の内容を説明した。
「はい」
「そうですね」と言う受け応えに、その男性は真剣味があった。宇洲航平という、その男性は風海の下で働く事になった。
教えた事は、真面目に取り掛かってくれた。分からなかったら、きちんと訊きに来た。仕事は早い方じゃないが呑み込みが早い。
水仙を辞めて風海の家で、掃除、洗濯、元大工ということもあって家の収納棚や家具を作ってくれている。今では、料理学校を習い終え料理もしてくれるようになった。
「航平くんも夕飯、食べていったら?」
「いいんですか?」
「なんで?」と風海が訊くと、
「お邪魔かと」宇洲は、少し言いにくそうに言う。
「誰がそう思うの?」
「藤田さんと、花吉さん」宇洲は、二人を見て言った。
「私は、ここで働いている者です。ここに住ませてもらってはいますが」
「そうなんですか」
そうして、宇洲は、夕飯をご馳走になる事になり、泊まるようにもなった。
風海は、航平といると仕事も仕事以外も楽しかった。手作りアクセサリーを続けていたら、出会っていなかっただろう。
私が作ったアクセサリーは、今どこにいるのだろうか?私が産み出したアクセサリー。それは私の子供でもある。あのこたちは、どこに...
二十年が経った今、航平は夫として風海と一緒に仕事をして暮らしている。花吉も相変わらず、風海たちの家事をやってくれる。その上、家の修繕もだ。
(了)
長い間、読んでいただき有難うございました。
これからも、拙い文ですが綴っていこうと思いますので、宜しくお願い致します。