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播磨陰陽道

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2021年9月の記事一覧

近世百物語・第四十一夜「防空壕」

近世百物語・第四十一夜「防空壕」

 子供の頃、近所に大きな防空壕がありました。防空壕は戦争中に空爆の避難に使った施設です。私の故郷は〈軍都〉と呼ばれていましたので、大きな防空壕が市内にいくつも残っていました。
 そんな関係もあり、子供の頃に住んでいた家の近所に大きな物が残っていたのです。防空壕は、建物と言うより岡に埋もれた入り口だけの感じでした。半地下の広場のような造りだったのです。軍の施設ですので、デザイン的な考慮もなく、無愛想

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不幸のすべて・第九話「不幸と幸福の正体」

不幸のすべて・第九話「不幸と幸福の正体」

 前回の終わりに、不幸と幸福は基本的に同じものを意味しますと書きました。また、同じ状態のこちら側とあちら側を呼び分けているに過ぎないのですとも書きました。
 人の心のあり方は、立場や環境によって変化します。ただ人が、ある状態を幸福と呼び、あるいは不幸と呼び分けているだけです。もちろん、すべてがそれに当てはまる訳ではありません。しかし、多くの場合はそれに準じているのです。

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播磨陰陽師の独り言・第五十一話「ルビのこと」

播磨陰陽師の独り言・第五十一話「ルビのこと」

 noteにようやくルビが付けられるようになって喜んでいます。やはり日本語にはルビが必要たと思います。ルビのないものは、日本語らしくないとも思っています。
 この〈ルビ〉と言う呼び名は外来語ではありません。新聞記事の〈ふりかな〉の活字サイズが、宝石の1ルビーと同じ大きさだったので、〈ルビ〉と呼ばれるようになったものです。もちろん、正式には〈振り仮名〉と呼ばれます。
 振り仮名は、元を正せば片仮名が

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近世百物語・第四十夜「小さくて大きな祠」

近世百物語・第四十夜「小さくて大きな祠」

 幼い頃住んでいた家の近くに小さな公園がありました。ブランコとスベリ台だけがあり、あとは小さな祠がひとつ。祠に遊びに行くのが好きでした。
 道祖神でも祀っているのか、祠の正体は幼い私にとって知る由もありません。ただ遊びに行くと、鳥居の横に友だちが座って待っていたのが嬉しかっただけです。
 友達の名は知りません。顔も見た記憶がありません。と言うのは、その子がいつも狐の面をつけていたからです。会うと秘

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播磨陰陽師の独り言・第五十話「本日の収穫」

播磨陰陽師の独り言・第五十話「本日の収穫」

 毎晩、〈本日の収穫〉と思う文書ファイルに、その日の日付けを書いて、収穫のあった物事を記入しています。
 収穫のあった物事とは、たとえば、
――◯◯と言う本を読んだ。
 とか、
――◯◯の絵を描いた。
 と言った、その日に出来た物事のことです。
 毎日、書いていると、何かが出来あがって行くのを実感します。
 今日、出来なかった物事に焦点を当てるのではありません。出来た物事にだけ注目するのです。一日

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怖い話のウラ話・第12話「都市伝説はやがて」

怖い話のウラ話・第12話「都市伝説はやがて」

 この世には、たくさんの怖い怖い都市伝説があります。多くは、ただのヨタ話です。しかし実際に、恐怖の的となるものもあります。怖ろしい伝説は、恐怖の気持ちが募って現実を作ります。そうなると、噂話に過ぎなかった物事が、にわかに動き出して、世の中に被害をもたらします。
 まるで、嘘から出た真実のようなお話です。
 口避け女なんぞは、その良い例です。あれは作り話で、ただの噂でしたが、いつの間にか現実世界を恐

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近世百物語・第三十九夜「福の神」

近世百物語・第三十九夜「福の神」

 高校生くらいの頃、道端で福の神のようなものに出会いました。
 その日は雪が降っていました。学校からの帰りに歩いていると、足跡が深く雪に残ってゆきます。十勝平野に雪が降ると、普段よりは、いく分、暖かい感じがするものです。
 厳寒と呼ぶに相応しい寒さは、空も凍りつくのか、雪は降りません。ただ、空気中の水分が凍って、キラキラと光を反射するだけです。これはダイアモンド・ダストと呼ばれています。こんな日は

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怪しい世界の住人〈天狗〉第四話「天狗の歴史」

怪しい世界の住人〈天狗〉第四話「天狗の歴史」

【玉藻の前の登場】

 陰陽師が祈って苦しみ出したのは、玉藻の前と呼ばれる美しい女性でした。博士の祈りにたまりかねた玉藻の前は、ついに九尾の狐の正体を現し、急いでその場から逃げ出したのです。
 鳥羽天皇が、
「おのれ、逃がしてはならじ……」
 と叫ぶと、ふたりの侍・上総介と三浦介に妖怪退の命令を下しました。鳥羽天皇の時代は西暦1107年~1123年頃です。
 それから侍たちは、大勢の部下を連れ、下

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播磨陰陽師の独り言・第四十九話「アマガエルの問題」

播磨陰陽師の独り言・第四十九話「アマガエルの問題」

 カエルと呼ぶ生き物が好きです。特にアマガエルが好きです。アマガエルの別名を〈雨乞い虫〉と言います。われわれ播磨陰陽師も、昔からしばしば〈雨乞い虫〉と呼ばれて来ました。その理由は雨乞いをするからです。その時に必ずアマガエルが近くに屯しています。アマガエルは雨の中を移動すると思われています。雨の中を移動していると、やがて雨が止んで、日が差して、あたりが乾くこともしばしば。アマガエルも、当然、乾きます

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祈りのカタログ・第十話「祈りの言葉を」

祈りのカタログ・第十話「祈りの言葉を」

 ある物事を、人が無意識の中で判断したと仮定します。その人が、悪い行動が癖になっているとしたら、有無を言わさず悪い方向へと考えを向けてしまうのです。この時、良い方向へと行動するには良い記憶が足りな過ぎます。つまり、良い方向へと判断してから、実際の行動に移すまでの記憶の中にある基本情報が足りないのです。
 誰もがない袖は振れません。選ぶとしたら有る袖を選ぶのです。無意識が判断する時、どうしたら良いの

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近世百物語・第三十八夜「十二月十四日」

近世百物語・第三十八夜「十二月十四日」

 十二月十四日は、赤穂浪士の討ち入りの日です。一年には色々な記念日がありますが、この日くらい様々な物事を思い出し、そして考える日は稀です。この日は、私にとっては特別な日です。前にも書きましたが、私の祖母は赤穂浪士の子孫として生き、そして死にました。その祖父である曾祖父(祖母の祖父を正確には何と呼ぶのか知りませんが……)は、立派な、そして最後の武士らしい武士であったそうです。
 その曾祖父は、まだ北

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播磨陰陽師の独り言・第四十八話「良く眠る日々」

播磨陰陽師の独り言・第四十八話「良く眠る日々」

 最近、よく眠ります。
 病院にいて退屈だからなのか……それとも、病気を治すために自然に眠くなるのかは分かりません。とてもよく眠るのです。
 眠ると夢を見ます。残念なことにあまりに多くの夢を見ているのと、夢の世界の日常の風景を見ているだけなので、夢の詳細を覚えていません。
 時々、
——夢を見ない。
 と、おっしゃる方もおられるようですが、そんな人であっても夢は必ず見ています。ただ覚えていないので

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御伽怪談第二集・第一話「悲しき抜け首」

御伽怪談第二集・第一話「悲しき抜け首」

  一

 昭和の見せ物小屋では、チャチな作りのろくろ首が、三味線を爪弾きながら首を伸ばして見せてくれた。もちろん作り物に過ぎないが、本物のろくろ首の多くは、このような伸びるものではない。抜ける首が多いのだ。これを古くは〈飛頭蛮〉と呼んだ。この言葉は今では忘れられたもののひとつである。
 抜け首は、死んだ者の霊魂ではなく、生霊のひとつだ。別名を〈離魂病〉と呼ぶ。生きながら魂が離れる病……だから、ろ

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播磨陰陽師の独り言・第四十七話「美味しいご飯」

播磨陰陽師の独り言・第四十七話「美味しいご飯」

 大阪市の北に、柴島と呼ばれるエリアがあります。この柴島はかつては島でした。なぜ〈国島〉と書かずに〈柴島〉と言う字を書くかと言うと、柴が採れたからです。
 昔話の中に、

――お婆さんは川へ洗濯に、お爺さんは山へ柴刈りに……。

 とありますが、この〈柴刈り〉はクヌギの木を刈りに行ったのです。
 大阪の柴島は、柴としてクヌギの木を刈る島なので〈柴島〉と呼んでいたものが、やがて〈柴島〉と変化して行っ

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