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怪しい世界の住人〈天狗〉第四話「天狗の歴史」

【玉藻の前の登場】

 陰陽師が祈って苦しみ出したのは、玉藻たまもの前と呼ばれる美しい女性でした。博士の祈りにたまりかねた玉藻の前は、ついに九尾の狐の正体を現し、急いでその場から逃げ出したのです。
 鳥羽天皇が、
「おのれ、逃がしてはならじ……」
 と叫ぶと、ふたりの侍・上総介かずさのすけ三浦介みうらのすけに妖怪退の命令を下しました。鳥羽天皇の時代は西暦1107年~1123年頃です。
 それから侍たちは、大勢の部下を連れ、下野しもつけの国・那須野の原まで化け物を追いかけ、九尾の狐の声を聞きつけ、遠巻きに四方を取り巻いて百匹の犬を放ちました。
 やがて、様子を見に行った部下の報告。
「胴は七尋、尾は九尋の大きな狐が奥に見えました」
 九尾の狐の方向を尋ねると、
「あの方向にございます」
 と指差した瞬間、三浦介が弓をキリキリと引き絞り矢を放つと、次の矢を上総介が射掛けました。それを合図に部下の侍たちがたくさんの矢を射掛けました。矢が雨あられのように九尾の狐に降り注ぎ、ついに狐を射止めたのです。
 この時、九尾の狐の恨みの霊力がわざわいとなって、空を飛ぶものや地を駈ける野獣たちが化け物と化して、人の世に厄をもたらすようになったそうです。

 この物語の伝えるところの厄は、九尾の狐とそれに関するものです。それより以前に、すでに平安の世は化け物の厄で満ち溢れていました。
 平安の初期(970年近く)には化け物退治は陰陽師と侍の仕事でした。化け物の多くは死んだ人々の霊でした。怨霊と怨霊が持つ闇の霊力で化け物と化した連中だけが退治の対象でした。
 やがて、あまりにも侍や陰陽師たちが活躍したため、当時、主流だった仏教の僧侶たちの出る幕がなくなってゆきます。


【僧正天狗の活躍】

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