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風何(ふうか)
2022年5月23日 13:34
街中を歩いている人はみんな、喧騒というものが、見ず知らずの他人の幸福で構成されていることを知っているだから、わたしも例にもれずそのことを知っていたのだけれど、それだけでなくわたしもあなたたちと同じように喧騒を喧騒だと思っていたから。だからわたしは、いろんな電車が通じている大きな駅の構内をひとりで歩いているとき、通りすがるひとびとすべてに対して、一瞬にして消えてくれればいいのにと思っていた。
2022年5月21日 12:27
眠れないまま夜を過ごして気づいたときには日が昇ってわたしはその煌びやかな光を、呆けたように見つめることしかできなくてその瞬間からただ次の夜を待っていたわたしは亡霊
2022年5月18日 10:30
暴言しか吐けないその人は多くの人に疎まれ、嫌われながら死んでいったか細い声で「みんな死ね、みんな消えてしまえ」と言いながら。最期の最期まで、塵を見るような目で見られながら。それでも、ただのひとつも、言いたいことが言えないまま。痛み止めの種類が違っただけなんです痛かった、ただ痛かったんですと、その人は言いたかった数多の注射痕と大きな傷口がひとつ割腹自殺の傷口に、その先に、道が開けている
2022年5月9日 12:29
もうすぐ世界が終わりますね先生、いかがお過ごしでしょうかわたしはあれからどんどん文章が下手になっています。わたしは今でもはっきりと覚えているんです。あなたが文章の書き方を教えてくれたときのことを。あなたはわたしの書いた文章をあれこれ見ては、これは無駄だ、あれは無駄だと切り捨てていった。そしてそのとき、先生にいらないと言われた多くの文字たちは確かに死んでいた。切り刻まれて飛び散ったみたい
2022年5月7日 22:31
象徴することを「象る」と言うのはどうしてだと思う?それはね、なにかを象徴するってことが、なにかを「型取る」行為に他ならないからだよ。もう誰が言っていたのかも忘れてしまった。後になってわたしが調べても、そんな事実が出てくることはなかったから、その話はきっとそのひとが思いついたでたらめに違いないのだけれど。それでも、わたしはその言葉がずっと忘れられないのだった。わたしは今日も人を好きになり
2022年5月6日 11:00
本当は、ただ見ているだけだっただから、きみはわたしの持つ一対の瞳に自分の姿が幽かに映りこんでいるのをどうしようもなく喜んでいたけれど、その瞬間のわたしの瞳はただの鏡となんら変わりなかった鏡が輝いていようがくすんでいようが関係ないのと同じように、わたしの瞳が輝いていようがくすんでいようが関係なんてないから実像も虚像も関係ないし、本物も偽物もなにも関係ないきみは穴凹に向かって語り掛けている
2022年5月5日 14:11
ぼくは偉くなりたくて本を読んでいた。けれどもきみは本を読みたくて本を読んでいた。ずっと分かっていた。ぼくときみが違うことは文字は文字のままだった。だから栞が必要なんだ。読んだ証が欲しかった。そんなぼくは澄んだ空気の下で、何度も本を閉じては開いてを繰り返していて、意味もなく煌びやかな太陽に目を奪われてばかりいる。あどけないきみの表情が苦しかった。きみが羨ましかった。栞のいらないきみへ
2022年5月3日 16:03
きみは知らないきみが幸せそうな顔をしているのを見て、吐きそうになっているひとがいることを綺麗さっぱり吐けてしまったのなら幸せなのだけれど、そもそも吐き気がこないのならばどれだけいいか、と確かにそう思っているのだけれど。ただそんな願いはすぐに、思い出せない夢みたいに消えていき、今日も今日とて路傍でとどまることのない嘔吐をするのですそして何も知らないきみはきっと、ごくごく一般的な感性から、
2022年5月3日 04:37
綺麗に壊れるものになりたかったガラス玉みたいに、壊れてもなお綺麗でいたかったけれどもぼくがたとえどんなに願ってもいつまでもそんな日が来ることはないから成長はどこまでいっても老化の希望的観測でガラス玉の名残があるのはぼくの瞳だけだから、どうしようもなく腐ってしまう前にどうか、ぼくを壊してくれませんか
2022年5月2日 07:14
見える風景が漂う匂いが聞こえる音が身体を震わせることなくただ沁み入るように深く、深く落ちていってほしいすべてのものはわたしたちの心のためにあるものではないから雨は悲しみを象るものではないし、晴れも喜びを象るものではないのだからさあ、言葉なんて捨ててしまえ