【詩】爆弾魔になれなかった放火犯
街中を歩いている人はみんな、喧騒というものが、見ず知らずの他人の幸福で構成されていることを知っている
だから、わたしも例にもれずそのことを知っていたのだけれど、それだけでなくわたしもあなたたちと同じように喧騒を喧騒だと思っていたから。だからわたしは、いろんな電車が通じている大きな駅の構内をひとりで歩いているとき、通りすがるひとびとすべてに対して、一瞬にして消えてくれればいいのにと思っていた。
なにかのきっかけで、みんなみんな爆散して死んでしまったのなら、それで一緒にわたし自身も跡形もなく消えてしまったなら、すこしくらいは気も晴れるかもしれないと思って、そんなことを夢想しながら、そんなことを願いながら、わたしは誰かの話し声や笑い声が混ざり合った雑音を聞いていたのです。
けれども、街はわたしとは関係なく、今日も正常に作用しているから
わたしは、人知れずに火をつける
マッチを擦って、その火のついたマッチ棒を放り投げた
大雨の日の水溜まりに
振り返らず、逃げるようにそのまま家に帰った
炎は燃え広がるはずもないと分かっていたけれど。消えたところをわたしは見ていないから
だから、いつかその炎が燃え盛るんじゃないかと思って、そしてその炎の渦がいつかすべてのひとを飲み込んでくれるんじゃないかと期待して、わたしはひとり祈り続けていたのです
雨で濡れた体を震わせながら