●途中まで試し読みでお楽しみいただけます。続きは有料となりますので、よろしくお願いいたします。 「バトルグランド」は、Amazon Kindleでも販売しています。 ●光一 ベッド脇にあるサイドテーブルの上で、スマホが激しく振動した。 重い身体を起こし、スマホに手を伸ばす。 「お兄ちゃん?」 妹の五月だ。 「どうしている? 大丈夫? 玲子さんが家を出たって聞いたけど、本当なの?」 返事をしようとしたが、喉から出てきたのは掠れた音だけだった。玲子が出て行ってから一週間
ハイブランドで働いていた時、私はセールスマーケティング所属だったので内勤でしたが、スタッフに急病人が出たり、大きなイベントがある時はお手伝いとして、時々店に立つ事がありました。 都内某百貨店の店舗にお手伝いにはいった時の事。 お客様もほとんどいなくなった閉店間近の時間、ふらりとひとりの女性が店にはいってきました。 年齢は二十代半ばくらい、長い髪、ほっそりとした体型、ふわりとしたブラウスにロングのタイトスカート、サンダルでした。 彼女は、当時大人気だったバッグを手にして、私の所
文字通り、死にかけたことがあります。 二十代の時、企業犯罪の犯人に仕立て上げられました。虚偽申告をしたのは、元上司、秘書チームのリーダー、親しくしていた同僚です。 なぜそんなことをしたのか、それぞれ胸糞悪い人でなしな理由がありましたが、まぁそこは割愛。 当時はまだ今ほどコンプライアンスもハラスメントなどに対する対応もなされておらず、さらにその会社はそういうものが横行していました。 部長に呼び出された後、どうやって家に帰ったか覚えていません。 抗議に行った上司は、「だったらお前
写真部の部室に書類を取りに行った南拓哉が職員室に戻ると、室内は放課後で人がいちばん多い、騒々しい時間になっていた。 頻繁にではいりする生徒達とその対応をする先生方、そして、その傍らで談笑する他の先生たち。 その中を通り抜けた拓哉が、部屋の一番奥にいる顧問の赤坂先生のところの書類を持っていくと、赤坂先生は、「ああ、手間かけました」と片手をあげ、書類を受けとる。 「ちょっと見ましたが、コンクールには、全員応募するってわけじゃないんですね」 そう言った拓哉に、赤坂先
ここしばらく、この世の汚泥を煮詰めたみたいな人と関わりがありまして、精神削られておりましたが、無事、そこから脱出しました。 ばんざい、ばんざい。 いやもう、筆舌しがたい、耐えがたいレベルで、話す事、やる事すべからく耳に汚物が詰まりそう、顔をヘドロに突っ込んだみたいになりそうで、仕事もとにかくひどすぎて言葉を失うレベル、そこへもってきて意地悪で下品、薄っぺらいおべっかとごますりばかりで、こんな人がこの世に存在するなんて……という感じでした。 なんでこの種の人達(女)って、これ以
「三番、はいります」 レジのみんなにそう言うと、絵里は私物のはいった小さなトートバッグを持って、そこを離れた。 三番とは、この書店で使われている特別な番号で、『休憩にはいる』という意味だ。 その他に、『トイレにいってくる』『昼食に出る』などの用事も、専用の番号でスタッフに伝えることになっている。 店を出て、ビル従業員専用のエレベーターで六階にあがると、絵里はその横にある自動販売機でコーヒーを買う。 たいしておいしいわけでもないが、他に選択肢はない。 店
今年の夏コミに、こんなコスプレの方が登場されました。 日本人ならたいていの人はわかる。 そう、耳なし芳一、小泉八雲の「怪談」で広く知られるお話です。 そんでもってこちら。 パリオリンピック閉会式で、小学生が真似てみた的なものが登場したそうで、ホンモノはもっと素晴らしいんだぞ!と話題になっていたこちら。 書き込みにもありますが、かの有名なサモトラケのニケ。 こちらもおそらく、多くの日本人は知ってるはず。 オリンピックのあれ見て、ニケだ!ってわかる人が多い日本、なんかすごい
劇場で見て、とても心に残った映画でした。 12歳のナヨンとヘソンは超仲良しで、お互いほんのり恋心を持っていましたが、ナヨン一家はカナダに移住、そのためふたりは疎遠になります。 12年後、ネットを通じて偶然再会したふたり、好きだという気持ちをそれぞれ確認しますが、「いつ韓国に戻ってくる?」「いつNYに来る?」の平行線のまま、結局直接会う事ないまま、疎遠になります。 そのまた12年後、ユダヤ系アメリカ人と結婚したナヨンのもとに、ヘソンが尋ねてきます。 アメリカやフランスの映画で
「土曜日、健人の友達、うちに呼んだんだけど」 味噌汁のはいった鍋に火をかけながら、綾は隣の居間でテレビをつけた夫の隼人に言った。 「いった君?」 隼人の問いに、綾が「うん、そう」と答えると、「健人、大喜びしてただろ? あいつ、いった君のこと大好きだから」と言いながら、隼人が新聞を広げる音がした。 息子の健人は小学校三年生になる。 内気なうえに少し吃音があり、本人がそれを気にして、クラスの子供たちとなかなか馴染めずにいたが、三年生になって友達が出来た。 学校か
英語できますにもいろいろあります。 いやほんと、いろいろある。 それはもう、TOEICとか英検とか、そういうもので測れないものがあります。 おおざっぱにレベル分けしてみるとこんな感じ。 レベル1 挨拶と自己紹介くらいはできる レベル2 海外旅行で最低限必要なことが理解できて、話せる レベル3 自分の言いたい事は、わかる範囲の単語並べて言える、でも返ってくる言葉はいまいち理解できない レベル4 外国人と簡単な世間話ができる、ただし相手がかなりわかりやすく話してくれてい
「何? 結局、お母さんが行くの?」 玄関で靴を履いている美和子に、居間から出てきた娘の弥生が言った。 大学から東京に出た弥生は、そのまま就職して都内で一人暮らしをしている。 週末、高校の同級生の結婚式があるというので、久しぶりに帰郷していた。 「仕方ないじゃない。あんたに頼めないでしょ?」 美和子が靴紐を結びながらそう言うと、「うーん、お父さんの指定ルート、私、わからないからなぁ」と弥生が返す。 その弥生を、美和子の足元に寝そべるマロンが、興味なさそうに
ゲーム歴は長いです。 長い上に、公式記録にも名前が出ていたり、ゲーム会社から取材受けたり、呼ばれて発売前にプレイさせていただいたり、公式戦に出たりしています。 ポケモンはやった事がありません。マリオみたいなゲームは実は超苦手。 プレイするのはほとんど、バトル系、アクション系のゲームです。 初めてオンラインで知らない人とタッグを組んでゲームしたのは、「バイオハザード5」でした。 マーセナリーズというおまけ(追加)ゲームがあり、ツーマンセルでスコアをあげるゲームなんですが、緻密
ヨガのクラスが終わった後、時間を取ってほしいと真紀子からLineに連絡がきたのは、木曜日の夜だった。 ヨガスタジオで親しくなった真紀子は、夫の転勤で、一か月後に日本を離れてはタイで暮らすことになっている。 初めての外国暮らしとあって、悩みや不安も尽きないらしく、以前にも増して真紀子からの誘いは多くなったが、明るく前向きな彼女と話すことは、香にとっても楽しい時間だった。 レッスンが終わって連れ立ってスタジオを出ると、真紀子の表情が暗くなった 香はその様子に何か
ここしばらく、仕事関係と友人関係両方でいろいろあって、自己肯定感と尊厳ががっさり削られまして。 無茶苦茶失礼な事されて、無茶苦茶無礼な態度を取られて、無茶苦茶失礼な事を言われて、無茶苦茶いい加減に扱われると、それで受けるダメージってわりとシャレにならないくらいでかい。 失礼な事していい人間、足蹴にしてもよい、いい加減に扱ってもいいし、何を言ってもいいんですよで石つぶて投げられたと認識しております。 通常、そういうのへの耐性はわりと高くて、むしろ逆に「ナメとんのか」とグレネード
「ゆかり、お姉ちゃんになったの」 病院に着くなり、誰かれとなくそう言うゆかりに人々は笑顔を向ける。 「まぁ、すごいわねぇ。ゆかりちゃんはいくつ?」 杖をついた老女が訊ねると、ゆかりは5本の指を前に出して、「五歳」と大声で答えた。 隣にいる父親が「すみません」と笑いながら言うと、老女が「お子さん、お生まれになったの?」と尋ねる。 父親は「昨日の夜生まれまして。今日は、娘連れてきたんです」と答えた。 「まぁ、それはおめでとうございます」と老女が言った。 「あの
目的の廃墟は、思っていた以上に山の奥深くにあった。 人が通らなくなった細い道には草が生い茂り、木が覆いかぶさっている所もあったが、存在はうっすらと残っていた。 ― さすが、モールスさんの情報は確実だな 教えられた道をたどりながら、春樹は高揚する気持ちを抑えられない。 廃墟ML(メーリングリスト)のメンバーのモールスはこの近所に住む人間で、休日はバイクで近隣の山をまわり廃墟探しをしていて、気軽にMLメンバーに情報を共有してくれる。廃墟MLのメンバー内では