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映画「パストライブス/再会」を韓国人女性と語り合う

劇場で見て、とても心に残った映画でした。
12歳のナヨンとヘソンは超仲良しで、お互いほんのり恋心を持っていましたが、ナヨン一家はカナダに移住、そのためふたりは疎遠になります。
12年後、ネットを通じて偶然再会したふたり、好きだという気持ちをそれぞれ確認しますが、「いつ韓国に戻ってくる?」「いつNYに来る?」の平行線のまま、結局直接会う事ないまま、疎遠になります。
そのまた12年後、ユダヤ系アメリカ人と結婚したナヨンのもとに、ヘソンが尋ねてきます。

アメリカやフランスの映画であれば、再会したふたりの恋は再燃し、熱い恋愛関係に至るのでしょうが、この映画、韓国系アメリカ人の女性セリーヌ・ソンが監督、脚本で製作されています。
なので、そういう展開にはなりません。至ってアジア的。
ナヨンやヘソンの想い、ナヨンの夫の気持ちが染みるような映画でした。

親しくなった韓国人女性にこの映画の事を話してみたところ、未見だった彼女、「絶対に見たい」と言って数日後、「見た!感想を言いたい」と言ってきました。

ヘソンはひじょうに優しい男性ですが、映画の中でナヨンは彼の事を至って韓国的なマッチョな男性だと夫に伝えるシーンがあります。
私も見ていて、ヘソンは韓国的だなと感じていましたが、それがどこにどう表れているのかよくわからずにいた所、彼女がそこを見事に指摘してくれました。
「最初のオンラインでの再会の時、彼は最初から、ナヨンが自分に会いに韓国に来るのが当然だと考えている。彼は終始、自分からナヨンに何かをしようという考えはなかった。彼女の事をずっと好きでいたけれど、彼女のために何もしていない。至って典型的な韓国男性だと思った」
なるほど、そこか!と思いました。
さらに、私が指摘していた「ヘソンは結局最後まで、ナヨンの母国語となった英語がわからないままだった。彼女のために勉強しようとする気はまったくなかった」という部分も同意。
その対比として、ナヨンの夫の存在があります。
ナヨンは夫のアーサーとの結婚は、VISAのためと言っています(ナヨンはカナダ人のため)。
しかし、ふたりの関係は良好で、ナヨンがヘソンと会う事も夫には隠していませんし、アーサーは笑顔で「久しぶりの再会は楽しかった?」と妻に尋ねています。
しかし、アーサーが、かつて好きあったふたりの再会に懸念を感じていないかといえば、そうではありません。もしかしたら、妻は彼を選び、自分のもとを去っていくかもしれないという不安を抱えています。
しかし、何気なく描かれている夫婦の言葉の中に、ふたりの関係の深さが描かれています。
アーサーはナヨンの両親と韓国語で花札ができるほど、韓国語を習得しています。ナヨンと結婚してから、韓国語を学び始めた。
ふと、ナヨンが「なぜ、韓国語を学ぼうと思ったの?」と尋ねます。
それに対してのアーサーの答え。
「君は、韓国語で寝言を言うんだよ」
私はこのシーンでうっかり泣いたんですが、韓国人女性はここで号泣したそうです。
「好きだという気持ちはヘソンの方が強かったと思う。けれど、ナヨンを愛する気持ちは、アーサーの方が大きかった」
アーサーは、常にナヨンの気持ちに寄り添っています。恐らく彼女もアーサーのためにそうしてきたのでしょう。

ラストシーン、ヘソンを見送ったナヨンが家に戻る途中で彼女は泣き出し、家の前で待っていた夫に抱きついて号泣します。
韓国人女性はそのシーンでも号泣したそうです。
「ナヨンはヘソンの事をまだ好きだったと思う。でも、ヘソンと直接会った事で、もうあの時の自分には戻れないし、戻る事はないともわかった。彼女は長く自分の心に中にあった恋に決別し、それと同時に韓国人であった自分にも決別したのだろう。彼女にアーサーがいてくれてよかった。彼女は気持ちの中で、母国と決別する必要があった。韓国的な部分と決別しなければ、アメリカでは生きていかれない。異国で女性が生きていくのは大変な事だ。アーサーは寄る辺ない彼女の大きな支えとなっているのだろうし、彼女の還る場所になってくれている」
話をした韓国人女性は、韓国で生まれ育ち、アメリカの大学に通い、その後日本で仕事をしています。
「この映画、韓国人女性が見たら泣く映画ですよ」と言っていました。
韓国人女性じゃなくても泣くよと言ったら、「日本人のあなたには、どこが響きましたか?」と聞かれました。

恋だけで突っ走らないのは、アジア女性の特徴なのかもしれないなと、彼女と話していて感じました。
ヘソンとナヨンは、再会しても手も握りません。もちろんセックスもしないし、キスもしない。
でも、ふたりの互いの気持ちがどれほどのものなのか、見ている我々には伝わってきます。
それでもふたりが微妙な距離を取りながら、お互いを見つめ合いながら、そこから決して動こうとしなかったのはなぜか、ぜひ映画を見てほしいなと思いました。
そこも、とってもアジア的。

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