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壊れた心を抱いて生きる ~会社でのハラスメントに対して

文字通り、死にかけたことがあります。
二十代の時、企業犯罪の犯人に仕立て上げられました。虚偽申告をしたのは、元上司、秘書チームのリーダー、親しくしていた同僚です。
なぜそんなことをしたのか、それぞれ胸糞悪い人でなしな理由がありましたが、まぁそこは割愛。
当時はまだ今ほどコンプライアンスもハラスメントなどに対する対応もなされておらず、さらにその会社はそういうものが横行していました。
部長に呼び出された後、どうやって家に帰ったか覚えていません。
抗議に行った上司は、「だったらお前もあいつといっしょに会社を辞めるか?」と部長に脅迫されたそうです。
みんなが私を殺そうとしていると震えて泣きながら帰ってその後、1週間記憶なし、失語症になり、外出できなくなりました。
いつも頭の中で誰かが怒鳴り合いの喧嘩をしていて、耳元で誰かが笑いながら「お前なんか死んだ方がいい」「ここから飛び降りれば死ねるよ、飛び降りろよ」と囁く。
その後十年以上、重度のパニック障害を引きずりました。

何度か本当にやばい一瞬がありましたが、ぎりぎりのところでなんとか生き延びました。
危ない一瞬、閃光のように思い出すのは、前に勤めた会社で斜め前に座っていた、自殺した人のことでした。
その人はひどいパワハラを受け、追い詰められ追い込まれて、会社のすぐ近くのビルから飛び降りました。26歳てました。
ショックで呆然とするご両親の前で、パワハラした張本人の部長が、「葬儀まで暇だから、近くで麻雀でもしよう」と笑いながら部下たちに言ったそうです。
パワハラした人達は何ら処罰も受けることなく、人を殺しても彼らは笑いながら生きていて、神罰さえも下りません。
自殺した人は背の高い人でしたが、お棺は彼の身長よりも小さかったのを覚えています。下半身、つぶれていたからです。
死ぬくらいなら、会社なんかやめていいんだよとその時思いました。クソみたいなやつらのために死ぬなんて、自分がかわいそうじゃないかと思いました。
その想いがその後、死にかけた自分を救いました。

そういう事があってわかった事があります。
心は一度壊れると、二度と戻りません。
もう二度と、元には戻らないんです。
当時の事は過去のものになり、今、私は元気で、幸いな事に重いパニック障害もほぼ完治しましたが、でも、ふとした時に一瞬であの生と死のぎりぎりのラインに引き戻されます。
自分の中で、死がものすごく近いものになっている。ふとした時に、それが冷たく優しい息を耳元に吹きかけてきます。
ともすれば私は、その囁きのままにいとも簡単にボーダーを超えてしまうでしょう。
それを体感として理解しています。
あの時、飛び降りてしまった彼や私を死の淵まで追い詰めたような人々は、世の中にたくさんいます。彼らは笑いながら、楽しみながら、他人を傷つけ、貶め、破壊し尽くす。
私も歳を取り、経験値があがって耐性がついて自分を守れるようになりました。助けてくれる人、手を差し伸べてくれる人もたくさんいます。
でも、いつも必ず、底知れぬ冷たい恐怖が身の内にある。
ボーダーを超えないためには、ものすごい努力と強い意志が必要です。
怒りや悲しみがあるのなら、まだ大丈夫。生きていられる。
でも、あの淵に立つと、そこには何もないことを知ります。
自分にはもう何もない。
自分であることすら、難しい。
そうなって人は、静かにゆっくりと虚無に溶けていき、そしていつのまにかこの世界から消えてしまう。

残念ながら世の中には、とてつもない悪意と卑しい欲望をぎらぎらさせながら生きている人がたくさんいます。
彼らはそれを笑顔や優しい言葉で隠し、餌食となる者を眈々と狙っている。
今はどこの企業もしっかりとしたコンプライアンスでもってハラスメント教育などもしていますが、それでもそういった事が根絶されることはありません。
その後もいろんな会社でとんでもない人間をたくさん見たし、とんでもない事になったものもたくさん見たし、その犠牲となって会社を辞めていった人、心身壊してしまった人もたくさん見ました。
対応してくれる会社や上司ももちろんいますが、そうであるとは限りません。むしろ、そうでない事の方が多い。
人間誰もが保身に回るし、面倒な事に巻き込まれたくないという人がほとんど。
犠牲となってしまった人間は、誰も信用できなくなっている。あるいは、助けの手を求めて、誰彼となくすがりついてしまうので、逆に人が離れてしまう。
私は知る限り、そういう状況から逃れる、自分を助ける最善の方法はたったひとつ、自分からそこを離れる事、つまり会社を辞める事です。
でもそれは簡単な事じゃないし、当然無理だという場合もあります。
「自分は悪い事は何ひとつしていないのに、なぜ、会社を辞めなければならないのか? 相手が罰せられるのが正しいはずだ」と言った人もいました。
でも、残念ながら世の中、正しい事が正しく在るとは限らない。
毎日のように怒鳴り散らされる、いじめ、嫌がらせ、セクハラ、意図的に仕事の足を引っ張る、書類やがファイルを勝手に削除する、社内ストーカー、個室に監禁、個人の私物を勝手に使ったり盗んだりする、個人のSNSのアカウントを特定してネットストーキング、アマゾン等のアカウントを特定して悪用、社内外に意図的に悪い(虚偽)の噂を流すなどなど。
全部21世紀で見たものです。

先に書いた一件からしばらく後、別の外資系企業で、上司が海外出張中に別の部署の部長から個室に呼ばれ、脅迫されました。
何が理由かはわかりませんが、彼の部下の女性が嘘の報告をあげ、それに怒ったその部長が私を呼びだしたという流れ。
全部嘘だったのではっきり言いましたが、その部長は「お前を犯罪者にしたててやる、警察につきだしてやるから覚悟しろ」と恫喝しました。
その日、帰宅途中で私は駅で倒れ、意識混濁のまま救急搬送、次の日、自宅から社長秘書に詳細報告の連絡をしました>その部は社長直結の部署だったので
すぐに、ヨーロッパ出張中だった上司(外国人)から電話がはいり、話を聞いた彼が「とりあえず、全部私にまかせなさい。君は一週間、会社に行かなくていい」と言いました。(その後、心配した上司の奥様からも電話をいただき、心配して食べ物まで届けていただきました)
社長室の人達や他の部署の秘書の人達から、「くだんの女性(虚偽の報告をした人)があっちこっちに部署をまわって、私は何もやっていないと必死に言い訳してまわっている」と連絡があり。
出張から戻った上司、私の顔を見るなり開口一番、「君はもう何も心配しなくていい」。。。上司、出張中に相手の部長に連絡をいれ、帰国して真っ先にふたりで会っていました。
「君の部下と僕の部下の間でなんらかの誤解が生じてトラブルになってしまった、お互い水に流しておさめようじゃないかと提案したが、彼は激高して、絶対に君を警察につきだしてやると言ったんだ。なので、じゃあこの件は本社のコンプライアンスにあげて、お白洲で正式に裁きを受けようじゃないか。僕の方はむしろそのほうがありがたいがね、と言ったら、彼は震えあがって、全部撤回したよ」
相手の部長は本当に、物理的に震えていたそうです。つまり、確実に意図的に悪意があったということ。
私は日本オフィスのコンプライアンスにこの件をあげましたが、そこで本国にもこの件をあげるように言われ、正式にレポートを提出しています。恐らく上司も正式に報告を出していたと思います。
その後、件の部長は降格して平社員となり、部下の女性は異動になりました。

そんな事、誰にも起きているわけじゃない。やられる側にも理由がある、という人はたくさんいます。私もそれを言われた事があります。
それを言う人達に言いたい。
あの日、ビルから飛び降りた彼に同じ事を言えますか?
あの日、電車に飛び込んだあの人に言えますか?
心を完全に壊されて、今も家の外に出られないあの人に言えますか?
行方がわからなくなってしまったあの人に言えますか?
毎日会社で怒鳴り散らしたり、嘘の報告をしたり、嫌がらせをしたりする人が正しいとするのですか?
あなたが同じことをされても、平然と笑顔でいられるのでしょうか?
そうか、自分はそうされても仕方がない、心を壊され、自死して当然の人間なんですよと言えるのでしょうか。

そうなってしまった時、自分に出来る事はとても少ないです。
戦う事を選ぶ人もいるけれど、それはとても難しいし厳しい選択だと思います。
そういう立場に追い込まれてしまったのなら、あるいはそういう人間が放置されている場所だとわかったら、個人が出来るいちばん簡単な方法は ”逃げる” だと思っています。
自分が壊れてしまうのとは別に、もっと恐ろしい事があります。
それは、”自分もそれに染まってしまう” こと。
その状況に慣れ、その空気に馴染み、いつのまにかそういう人達と同じ世界に生きる人間になってしまう。
それがいちばん恐ろしい。そうなってしまうと、元に戻るのはとても難しくなります。

心削られまくった会社を去った後、連絡をくれたヘッドハンターと話していて言われた事があります。
「去った会社の事について、ネガティブな事は自分の心の中にしまっておいたほうがいい。それを話す事は、あなたに何ら益をもたらす事にはならない。もうあなたはそこを離れた。関わりを断ち切った。気持ちを切り替え、ポジティブな気持ちで次の仕事に向かう、それが大事です」
時にそれはとても難しい事だけれど、でも、とても大事な事だと思っています。



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