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中庸について考えてみよう―極端を避ける賢い選択

中庸という言葉をご存じの方は多いかと思います。簡潔に言ってしまえば、バランスという意味なのですが、人は自分の経験や価値観などから知らず知らずのうちに偏見や先入観によって誤った判断をしてしまうことがあるので、中庸であることを意識してみることは仕事でもプライベートでも大事ではないかと思います。

例えば、利益至上主義の企業と理想主義の企業というのがあります。

不正な方法を使ったり、社員の待遇や健康を犠牲にして利益だけを追求する企業では、短期的に業績を伸ばすことはできてもいずれは顧客や社員からの信頼を失い、永続的には存在できないようになります。

一方で、理念に拘り過ぎて、社員や顧客を大切にするのはよいものの、目標達成に対して厳格さがなく、売上利益がじり貧の企業では資金不足や事業継続困難に陥るリスクがあります。

ひとつは拝金主義、他方は理想主義で、どちらもある意味極端な訳ですが、中庸という概念があればともに存続する可能性が高まります。

中庸という概念の始まり

「中庸」は中国古典の中でも特に重要な概念であり、儒教の中心的な思想の一つとされていて、儒教の教材といわれる四書五経のうちの一つでもあります。※四書(論語、孟子、大学、中庸)五経(易経、書経、詩経、礼記、春秋)

もともと「中庸」は、『礼記』の一篇である『中庸』に由来し、孔子の孫である子思がその思想を継承・発展させたとされています。

論語にも「中庸の徳たるや、それ至れるかな」という一節がありますが、
これは「偏らず調和することで理想の境地に至る」という意味です。

※ちなみにプラトンの弟子であるアリストテレスも中庸について触れていますが、ここでは割愛します。

いずれにせよこの中庸という概念は、調和とバランスを重視する生き方の指針として現代にも通じる深い洞察を提供してくれます。

中庸の基本概念

中庸という言葉は、「中」と「庸」の2つの意味をもった漢字から成り立っています。

「中」
偏りのない、適切な状態を意味し、すべての物事において極端を避け、バランスを保つことを指します。

「庸」
普遍的であり、誰もが実践できるという意味で、日常的に取り組むべき道徳的な実践を表しています。

この2つを合わせると、「中庸」は極端を避けつつ、普遍的な基準に従って調和を保つ生き方を意味します。

中庸という概念を用いた組織運営の要諦

中国古典における「中庸」の概念は、儒教の重要な徳目として位置づけられ、偏らず調和を保つ生き方を説いています。その意味は単なる中間を取る妥協的な態度ではなく、状況に応じた最適な判断と行動を指します。

この中庸の考え方を現代の組織運営に応用することで、個の成長と全体の調和を実現するための指針が得られるのではないでしょうか。本稿では、中庸の視点から組織運営の要諦を探ります。

1. 中庸の基本概念と組織運営への適用

中庸の核心は、極端を避け、バランスの取れた状態を追求することにあります。この概念を組織運営に適用する場合、以下の3つの側面が重要です

(1) 意思決定における中庸
極端な意思決定は、組織を混乱させるリスクがあります。例えば、すべてをトップダウンで決定する独裁的なリーダーシップは短期的には迅速な結果をもたらしますが、長期的には部下の自律性を損ない、組織の柔軟性を失わせます。一方、すべてを現場任せにする放任型では、方向性が失われ、成果が出にくくなる可能性があります。

中庸を意識した意思決定では、リーダーが全体像を把握しつつ、部下の意見を適切に取り入れます。これにより、迅速さと多様な視点を両立させた意思決定が可能となり、組織の活力を維持できます。

(2) 人材育成における中庸
社員の能力を引き出すには、過剰な介入と放任を避け、適切なサポートを提供することが求められます。マイクロマネジメントなどの過度な管理は社員の成長を妨げますが、逆に放置すると潜在能力を活かせません。

中庸を体現するリーダーは、個々の社員の特性を理解し、その人に合った成長機会を提供します。例えば、目標を設定する際には、挑戦的であると同時に達成可能なレベルに設定することで、社員が自信を持ちつつ成長できる環境を作ります。

(3) 組織文化における中庸
組織文化は、社員一人ひとりの価値観と行動を形作る重要な要素です。過度に厳格なルールや規律を重視する文化では、創造性が抑制されます。一方で自由すぎる文化は、秩序が失われやすくなります。

中庸を意識した文化づくりでは、自由と規律のバランスを重視します。たとえば、社員が自由に意見を述べられる環境を整えつつ、基本的な行動指針や責任範囲を明確にすることで、秩序と創造性を両立させることができます。

2. 現代のビジネス課題と中庸の実践

現代のビジネス社会では、多様化やグローバル化が進む中で、極端な価値観や行動がしばしば問題を引き起こしています。このような環境で中庸の哲学を実践することで、持続可能な成長が期待できます。

(1) リーダーシップにおける中庸の実践
現代のリーダーには、多様な価値観や背景を持つ人々を束ねる力が求められます。中庸を実践するリーダーは、異なる意見を尊重しつつ、最適解を導く能力を備えています。

例えば、データ尊重型の意思決定が主流になる中で、人間的な直感や経験を無視するのは極端なアプローチと言えます。中庸を意識することで、データと直感の両方を活かしたバランスの取れた判断が可能になります。

(2) 社員の多様性を活かす中庸の考え方
多様性を尊重することは重要ですが、過度な配慮がかえって対立を生むこともあります。一方で、画一的な管理は、個性を活かす機会を奪いがちです。

中庸を実践する組織では、多様性を尊重しながらも共通の価値観や目標を設定します。これにより、異なる背景を持つ社員が調和して働くことができます。

3. 中庸の実践に向けたアプローチ

中庸を組織運営に取り入れるには、以下のような具体的なアプローチが効果的です。

(1) リーダー自身の内省
中庸を実践するには、まずリーダー自身が自分の価値観や判断基準を見直すことが必要です。極端な判断を避けるために、自分の行動や決断を客観的に振り返る習慣を持つことが肝心です。

(2) フィードバックの仕組みを整備
リーダーや組織が中庸を実践するためには、社員からのフィードバックを積極的に受け入れる仕組みが必要です。多様な視点を取り入れることで、偏りを修正しやすくなります。取るに足らない意見と軽んじると、信頼関係を損なうことに繋がりますので、真摯に耳を傾けることは大事です。

(3) 学び続ける文化の醸成
中庸は固定的なものではなく、状況や環境に応じて変化します。そのため、組織として学び続ける文化を育むことが重要です。例えば、リーダーシップ研修や意見交換の場を定期的に設けることで、柔軟な思考を養うことができます。

偏見や先入観は自分が受け入れやすい意見ばかりに接し続けることでより強固なものとなってしまいます。それを避けるためにも自分とは異なる考えを聞く機会を意識的に増やすことは有益だと思います。

4. まとめ

「中庸」という中国古典の哲学は、現代の組織運営、リーダーシップにおいても重要な指針となります。極端を避け、調和を保ちながら最適な道を探る考え方は、個々の成長だけでなく、組織全体の持続可能な発展を支えるものになります。

リーダーや組織が中庸を実践することで、内面的な安定と外部環境との適応力を高めることができ、中庸は、対立する考えを丸く収めるという妥協ではなく、日々の行動や判断に反映できる実践的な哲学だと思います。

ふとした時に、自分は偏ってないかなと幽体離脱して自分を俯瞰してみると、また違った答えが出るかもしれません。

最後までお読みいただきありがとうございます。


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