ふくろう

中国語と中華圏の文学 ○仙台出身○上海留学○卒業1年前に東日本大震災発生○中国現代文学研究○再び上海留学○現在は関西の大学に勤務

ふくろう

中国語と中華圏の文学 ○仙台出身○上海留学○卒業1年前に東日本大震災発生○中国現代文学研究○再び上海留学○現在は関西の大学に勤務

最近の記事

神戸モダン建築祭で異文化にふれる

 今年で2回目の開催となる、神戸モダン建築祭。ふだんは一般に公開されていない神戸の歴史ある建築を見学できるイベントで、パスポートを購入することで、建築物を見学したり、各種の割引を受けることができる。すでに一般公開されている「風見鶏の館」などは含まれておらず、今回公開されるのは個人住宅や公共施設など、通常であれば見学会やイベント開催時にしか入ることができない建物が中心である。  木の葉が色づき、空の色もさえわたる晩秋の日は、まさに建築物がかもしだす歴史とロマンを感じるのにふさ

    • 中国のキャンパスライフと夜間サイクリングの流行を考える

       中国河南省で、深夜のサイクリングが流行している。SNSの投稿をきっかけに、河南省の鄭州市から、約50キロ離れた開封市まで一晩かけて移動することが流行、当局は規制に乗り出したという。   台湾メディア「端伝媒」に詳しい解説がある。  報道を総合すると、当初は夜間サイクリング自体が問題視されたわけではないらしい。しかし、大量の自転車が現れ交通をふさいだこと、野宿する参加者がいること、国旗をかかげ国歌を歌うなどの政治的主張が現れる……に及び、当局は規制に乗り出したという。

      • 【災害】能登半島 二重被災の衝撃と希望

        二重の被災 能登半島には、1月1日の地震と、9月中旬の豪雨により、2度の被災を経験し、いまだに外部との交通が杜絶している集落がある。  住民はヘリコプターにより救出、避難所に移送されたが、集落に通じる道はいまだに通行できないという。    11月1日から3日にかけて、輪島市内の仮設住宅で、住民の方からお話を伺った。  震災以前の、毎朝集落のベンチに座り、漁に出られるか相談した日々、豊かな海の幸、行動経済成長期を経て減少を続ける人口、空き家問題についてお話をうかがった。  1

        • 【旅】ケン・リュウ原作 映画『Arcアーク』と香川県の美

          ことでんに乗って もし、外国人に日本でいちばんのお勧めの旅行先を聞かれたら、きっと香川県を答えるだろう。  筆者は香川県には親戚がいる縁で、子供の頃から何度も訪れているが、温暖な気候と穏やかな風土に包まれ、見所も多い。  県内を走っているのは、琴平電気鉄道(通称ことでん)である。昭和レトロの香りが漂うことでんは、高松市内の駅ならともかく、親戚が住んでいる田舎の駅は無人駅である。数年前にようやくコイン式券売機やエレベーターが整備された。ちなみに、秘境というわけでもなく、わりと普

          【読書】中島敦を読み、宇宙の怖さに思いを馳せる

           広大な宇宙のスケールで時間や空間を考えることは、人を底知れぬ恐怖に陥れることがある。天文学的距離、地質学的年代、宇宙の歴史の長さからすれば、人は卑小でありその運命のまえに為すすべもない。そして、現代の天文学は太陽の寿命と地球のたどる悲惨な運命についても予測しているーー  中島敦は「山月記」「李陵」など中国古典に題材を得た作品で有名だが、「北方行」は同時代の中国を舞台にした未完の長編である。同作では、ある人物に地球の運命に対する絶望と虚無感を語らせている。  名を折毛伝吉

          【読書】中島敦を読み、宇宙の怖さに思いを馳せる

          【企画展】国立民族学博物館「客家と日本」と常設展

           大阪の万博記念公園にある国立民族学博物館の、企画展「客家と日本」を訪れた。また、常設展の方にも2020年代の新たな展示品が増えていることに気がついた。 企画展「客家と日本」 南中国の各地に点在する少数民族の客家(ハッカ)は、中国の鄧小平やシンガポールのリー・クアンユーなどの政治的人物を輩出したことで知られている。さらに遡れば、清末の太平天国を率いた洪秀全もまた客家であり、太平天国が目指した男女平等の理想は、客家の伝統社会に淵源をもつという。 会期 2024年9月5日(木

          【企画展】国立民族学博物館「客家と日本」と常設展

          【中国映画】グー・シャオガン監督『西湖畔に生きる』~欲望の闇に墜ちた「こころ」に向き合う~

           ヒューマンドラマ、社会派映画のどちらかの枠組みだけではすくい取れない、いまの中国の「こころ」の問題。グー・シャオガン(顧暁剛)監督の『西湖畔に生きる』(原題『草木人間』)が、日本でも公開された。  伝統美学を受け継いだ「山水映画」をめざす監督の第2作として、古都杭州の郊外で茶摘みの仕事をしていた中年女性が、マルチ商法のわなに溺れるさまを描く。  主人公の苔花(タイホア)は高級茶葉として知られる龍井茶(ロンジン茶)の農園で働いているが、大学を出た息子は就職が決まらない。茶

          【中国映画】グー・シャオガン監督『西湖畔に生きる』~欲望の闇に墜ちた「こころ」に向き合う~

          深圳の事件に思う

           深圳で日本人の男子生徒が襲われた事件を聞いて、本当に悲しい。  中国で「わたしは日本人です」と自己紹介すると、ほとんどの中国人は、友好的か、あまり関心のない反応をする。しかし、中にはごくごく一部であるが、強い反感や憎悪を示されることがある。民族間の憎悪は消えていない。  しかし、この話を中国人の友人に話しても、そのような反応をされると信じてもらえないことがある。「そんなことないよ、中国人は日本人を悪く思っていない」「わたしもみんなも日本が好きだよ」という。  はては、わ

          深圳の事件に思う

          【授業】2024年度前期「中国文学特殊講義」を振り返る

          2024年度の「中国文学特殊講義」で取り上げた作品―― 第1回: ガイダンス 映画『秋瑾 競雄女侠』 【第1部 中華民国期 現代文学】 第2回: 魯迅「阿Q正伝」 第3回: 郁達夫「沈淪」(創造社、日本留学生の文学) 第4回: 張天翼『大林と小林』(児童文学) 第5回: 丁玲「霞村にいたとき」(戦争と文学) 【第2部 中華人民共和国期 当代文学】 第6回: 革命模範劇『紅色娘子軍』 第7回: 阿城原作、陳凱歌監督『子供たちの王様』(中国映画)(新時期文学) 第8

          【授業】2024年度前期「中国文学特殊講義」を振り返る

          【企画展】ホー・ツーニェン「エージェントのA」 シンガポールの多元性と博覧強記

           新幹線で東南アジアの歴史を読みながら、東京に向かった。その国の歴史については、華人文学を通して少し知ったつもりでいたが、改めて本を読んでみると、自分の理解と異なる歴史が書かれている。  はたして何を知ったら、理解したと言い切れるのだろう。ため息が出た。    さて東京では、7月7日まで東京都現代美術館で開催されていた、シンガポールの芸術家ホー・ツーニェンの個展、『エージェントのA』を鑑賞した。  展示のメインは映像を使ったインスタレーションである。観客は複数の展示室をめぐり

          【企画展】ホー・ツーニェン「エージェントのA」 シンガポールの多元性と博覧強記

          【中国文学1930s】老舎『駱駝祥子』~100年前のギグ・ワーカー~

           今から100年ほど前、中国に軍閥が割拠していた時代だったころの北京。当時の北京で、最も主要な市内の交通手段は、人がひく人力車だった。  北京出身の文豪・老舎(ラオ・ショー、ろう・しゃ、1899-1966)に、人力車夫の青年を描いた『駱駝祥子』という作品がある。  人力車夫の「祥子(シアンズ)」は、わずかな収入を積み立てて、3年かけて100元を貯め、ついに自分の人力車を手に入れた。  祥子は努力して手に入れた人力車をひいて仕事に出るが、あるとき戦争のうわさが広まる。かま

          【中国文学1930s】老舎『駱駝祥子』~100年前のギグ・ワーカー~

          チェン・カイコー監督『黄色い大地』  ある思い出

           今回の投稿は、映画自体に関する批評や紹介ではない。  いまでは研究者になった人の、ある思い出話だ。  今回の授業では、チェン・カイコー監督の『子供たちの王様』(1987年)を見せ、学生に意見を聞いた。  本作品は1970年代、文化大革命末期のある農村の中学校が舞台である。生徒は教科書も支給されておらず、先生が黒板に書く字を書き取って授業を進めていた。作文を書かせれば、新聞の社説を丸写しするような時代である。  新任の若い先生は、教科書に沿った教育をやめて、生徒に身近なこと

          チェン・カイコー監督『黄色い大地』  ある思い出

          【中国映画1980s】阿城原作/チェン・カイコー監督『子供たちの王様』~教育の意義を疑わせる映画を教育現場で見せる意義~

           毎回、「中国文学特殊講義」の授業では学生に発言を求めている。しかし、学生の積極的な発言を促すためには、単に関心を高めたり、作品や教員に共感してもらうだけでなく、既存の価値観への再考を促す作品、議論の余地のある作品を扱う必要があるのかもしれない。  今回の授業では、1987年の中国映画『子供たちの王様』を取りあげた。  原題:《孩子王》  監督: 陳凱歌(チェン・カイコー)  製作年: 1987年 日本公開:1989年  製作国: 中国  雲南省の国境地帯で撮影された本作

          【中国映画1980s】阿城原作/チェン・カイコー監督『子供たちの王様』~教育の意義を疑わせる映画を教育現場で見せる意義~

          【中国文学1930s】巴金『家』~父の不在、家父長制の存在~

           授業で毎年必ず学生に紹介したいと思う作品、自身の視点で読んでほしい思う作品の一つに巴金の『家』がある。1931年に新聞連載を開始し、1933年に単行本にまとめられたこの作品が描くのは、東アジアに今も根強く残る家父長制が、家庭と社会のなかで極めて強い影響力を占めていた時代の悲劇である。 「父」はすでにいない。しかし「家父長制」から逃れられない。   作品の舞台は1920年代中国の地方都市である。おりしも五四運動に伴い、半封建と新文化の思想が陸続と紹介され始めた時代だった。

          【中国文学1930s】巴金『家』~父の不在、家父長制の存在~

          【旅】2018年夏 地震から半年後の花蓮を訪れた

           本日2024年4月3日、台湾の花蓮県沖を震源とする地震が発生した。現在までに死者9人、負傷者963人、複数の建物倒壊が報じられている。この災害で亡くなった方々に哀悼の意を表するとともに、一日も早い復興をお祈りしたい。    2018年夏に訪れた花蓮は、穏やかな南国の街だった。花蓮では2018年2月6日にもM6.4の地震が発生している。このときの被害は、市内を走る断層の上に集中し、複数の建物が倒壊した。  そのとき花蓮ではどのように支援活動が行われたのか。震災後の対応について

          【旅】2018年夏 地震から半年後の花蓮を訪れた

          【中国語教材】【映画】『こんにちは、わたしのお母さん』NHKラジオ講座のステップアップ中国語

           中国語の先生になったからといって、特別な勉強法があるわけではなく、日々地味に教材を読んでいる。  中国語を自主学習するひとつの難関はリスニング。実際の会話での発音というのは、教科書の音声データよりずっとぞんざいに発音されることが多い。リスニングの教材は聞き取れても、実際の会話を聴き取るのはさらにハードルが高い。自分で学ぶとしたら、映画やドラマを見ながらスクリプトを確認するのがよいだろう。  今回紹介するのは、NHKラジオ講座のステップアップ中国語の教材で、2021年の中国映

          【中国語教材】【映画】『こんにちは、わたしのお母さん』NHKラジオ講座のステップアップ中国語