記事一覧
【読書】中島敦を読み、宇宙の怖さに思いを馳せる
広大な宇宙のスケールで時間や空間を考えることは、人を底知れぬ恐怖に陥れることがある。天文学的距離、地質学的年代、宇宙の歴史の長さからすれば、人は卑小でありその運命のまえに為すすべもない。そして、現代の天文学は太陽の寿命と地球のたどる悲惨な運命についても予測しているーー
中島敦は「山月記」「李陵」など中国古典に題材を得た作品で有名だが、「北方行」は同時代の中国を舞台にした未完の長編である。同作
【企画展】国立民族学博物館「客家と日本」と常設展
大阪の万博記念公園にある国立民族学博物館の、企画展「客家と日本」を訪れた。また、常設展の方にも2020年代の新たな展示品が増えていることに気がついた。
企画展「客家と日本」 南中国の各地に点在する少数民族の客家(ハッカ)は、中国の鄧小平やシンガポールのリー・クアンユーなどの政治的人物を輩出したことで知られている。さらに遡れば、清末の太平天国を率いた洪秀全もまた客家であり、太平天国が目指した男女
【授業】2024年度前期「中国文学特殊講義」を振り返る
2024年度の「中国文学特殊講義」で取り上げた作品――
第1回: ガイダンス 映画『秋瑾 競雄女侠』
【第1部 中華民国期 現代文学】
第2回: 魯迅「阿Q正伝」
第3回: 郁達夫「沈淪」(創造社、日本留学生の文学)
第4回: 張天翼『大林と小林』(児童文学)
第5回: 丁玲「霞村にいたとき」(戦争と文学)
【第2部 中華人民共和国期 当代文学】
第6回: 革命模範劇『紅色娘子軍』
【企画展】ホー・ツーニェン「エージェントのA」 シンガポールの多元性と博覧強記
新幹線で東南アジアの歴史を読みながら、東京に向かった。その国の歴史については、華人文学を通して少し知ったつもりでいたが、改めて本を読んでみると、自分の理解と異なる歴史が書かれている。
はたして何を知ったら、理解したと言い切れるのだろう。ため息が出た。
さて東京では、7月7日まで東京都現代美術館で開催されていた、シンガポールの芸術家ホー・ツーニェンの個展、『エージェントのA』を鑑賞した。
【中国文学1930s】老舎『駱駝祥子』~100年前のギグ・ワーカー~
今から100年ほど前、中国に軍閥が割拠していた時代だったころの北京。当時の北京で、最も主要な市内の交通手段は、人がひく人力車だった。
北京出身の文豪・老舎(ラオ・ショー、ろう・しゃ、1899-1966)に、人力車夫の青年を描いた『駱駝祥子』という作品がある。
人力車夫の「祥子(シアンズ)」は、わずかな収入を積み立てて、3年かけて100元を貯め、ついに自分の人力車を手に入れた。
祥子は
チェン・カイコー監督『黄色い大地』 ある思い出
今回の投稿は、映画自体に関する批評や紹介ではない。
いまでは研究者になった人の、ある思い出話だ。
今回の授業では、チェン・カイコー監督の『子供たちの王様』(1987年)を見せ、学生に意見を聞いた。
本作品は1970年代、文化大革命末期のある農村の中学校が舞台である。生徒は教科書も支給されておらず、先生が黒板に書く字を書き取って授業を進めていた。作文を書かせれば、新聞の社説を丸写しするよう
【中国映画1980s】阿城原作/チェン・カイコー監督『子供たちの王様』~教育の意義を疑わせる映画を教育現場で見せる意義~
毎回、「中国文学特殊講義」の授業では学生に発言を求めている。しかし、学生の積極的な発言を促すためには、単に関心を高めたり、作品や教員に共感してもらうだけでなく、既存の価値観への再考を促す作品、議論の余地のある作品を扱う必要があるのかもしれない。
今回の授業では、1987年の中国映画『子供たちの王様』を取りあげた。
原題:《孩子王》
監督: 陳凱歌(チェン・カイコー)
製作年: 1987
【旅】2018年夏 地震から半年後の花蓮を訪れた
本日2024年4月3日、台湾の花蓮県沖を震源とする地震が発生した。現在までに死者9人、負傷者963人、複数の建物倒壊が報じられている。この災害で亡くなった方々に哀悼の意を表するとともに、一日も早い復興をお祈りしたい。
2018年夏に訪れた花蓮は、穏やかな南国の街だった。花蓮では2018年2月6日にもM6.4の地震が発生している。このときの被害は、市内を走る断層の上に集中し、複数の建物が倒壊
【中国語教材】【映画】『こんにちは、わたしのお母さん』NHKラジオ講座のステップアップ中国語
中国語の先生になったからといって、特別な勉強法があるわけではなく、日々地味に教材を読んでいる。
中国語を自主学習するひとつの難関はリスニング。実際の会話での発音というのは、教科書の音声データよりずっとぞんざいに発音されることが多い。リスニングの教材は聞き取れても、実際の会話を聴き取るのはさらにハードルが高い。自分で学ぶとしたら、映画やドラマを見ながらスクリプトを確認するのがよいだろう。
今回
【教育】10年代から感じ始めた大学生の変化
90年代の終わりごろ、『分数ができない大学生』(1999年)という本が話題になったという。
大学生の学力低下と無関心はゼロ年代の若者論のクリシェであり、事実このころに大学生だったわたしも新聞や教育現場で同様の議論をよく耳にした。しかし、10年代の半ばから大学教育の現場で学生を肯定する意見がちらほら聞こえるようになった。
「今どきの学生は予習復習とバイトで忙しいらしい」「こちらが指定していない
【授業】2024年度前期「中国文学特殊講義」
新学期の「中国文学特殊講義」授業計画。
受講者は大学2-4年生を想定。
扱う範囲は、1919年の五四運動から現在に至るまでの中国現代文学、当代文学。中国本土の文学のみならず、香港や台湾など中国語圏の文学を紹介する。
授業では、中国語圏の多元性に焦点を当て、各地域の文学と文化の魅力や、重要なトピックに関する議論を伝えたい。
第2-9回についてはテーマに沿って作品を選び、解説する。第10-
【中国映画】愛と欲望の不動産業界~ロウ・イエ監督『シャドウプレイ』~
昨今では中国の大手不動産会社の経営危機が伝えられ、乱脈経営や乱開発について日本でもかなり知られるようになった。関連業界も含めれば、GDPの3割を占めるという不動産業界の今後が注目されている。
そもそも、中国で都市開発の失敗から「鬼城(ゴーストタウン)」や「爛尾楼(未完成の建物)」が出現するのは、昨今に限った話ではない。2010年代初めごろでも、再開発のため引越しを余儀なくされたが、完成した団地