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【企画展】国立民族学博物館「客家と日本」と常設展

 大阪の万博記念公園にある国立民族学博物館の、企画展「客家と日本」を訪れた。また、常設展の方にも2020年代の新たな展示品が増えていることに気がついた。

企画展「客家と日本」

 南中国の各地に点在する少数民族の客家(ハッカ)は、中国の鄧小平やシンガポールのリー・クアンユーなどの政治的人物を輩出したことで知られている。さらに遡れば、清末の太平天国を率いた洪秀全もまた客家であり、太平天国が目指した男女平等の理想は、客家の伝統社会に淵源をもつという。

会期 2024年9月5日(木)~12月3日(火)
会場 国立民族学博物館 本館企画展示場
開館時間 10:00~17:00(入館は16:30まで)

 客家の文化としては、円形や正方形の集合住宅「土楼」や、鮮やかで大胆な模様の「客家花布」が日本でも知られている。
 今回の展示は客家と日本の交流にも光を当て、日本国内の客家の団体や、日本統治時代の台湾で活躍した客家の人物を紹介する。日本の客家は徐福を信仰している縁で、和歌山県の徐福伝承を紹介している。伝説はまた新たな伝説を生み出すのだろう。

2020年代のいまを生きる文化

 今回の企画展は本館の常設展のなかに設けられた小規模なものであるが、数年ぶりに常設展を訪れ、新しい展示品が増えていることに気づいた。中には、2020年代以降に収蔵された展示品もある。
 たとえば、インドの民族衣装では、伝統的なデザインばかりでなく、現代のデザイナーによる2020年代の新作を展示している。

 民具や工芸品など伝統文化と、服飾、乗り物、スポーツなどの現代文化が展示の中で等しく並ぶ。展示品の間を歩いていると、異国を旅し気のむくままに街頭をさまようような、発見の連続がある。
 いや、もしかして異国を旅していても、深く気に留めなければそのまま見過ごしてしまいそうな、市井の人々の流行や趣味の世界も紹介されており、筆者のような文献研究をしている身からしても新鮮な視点を得ることができる。

アイヌ民族・東北

 常設展の最後にアイヌ民族に関する展示がある。こちらでも、伝統的な工芸品に留まらず、現代のアーティストや職人の作品を展示している。
 それにしても、アイヌとは誰なのだろうか。「アイヌ文化の成り立ち」の紹介では、「北海道アイヌ」「樺太アイヌ」「千島アイヌ」のみならず「東北アイヌ」を分類に加えている。 
 東北のアイヌは地名や史書に痕跡を留めているのみであり、近代が始まる前に表舞台から姿を消した。しかし、東北にアイヌ語地名が残ることからも、二つの民族がかつてこの地で接触したことは確かなのだろう。
 東北とは何者なのかという問いにもつながる重要な視点が、ここにさりげなく示されていることに驚いた。

 近年の研究や議論の成果が展示に活かされているのだろう。
 民族や地域の文化は固定した静態的なものでなく、時間的地理的な広がりと深さを持つものとして示されている。民族文化や伝統には今もなお、時代に合わせて発展し、多様な解釈を受け入れ、未来のための出会いを生み出す力があることを感じた。

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