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【連載】#25 世界中を回ってわかった日本の田舎力|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

私はフリーの出張料理人、料理研究家として、30年以上にわたり、日本全国、世界も95カ国を訪れました。その経験を通して見えてきたことは、

「日本の食文化、食材は、確実に世界でもトップレベルで、自信を持って世界に誇れる」

ということです。農産物、畜産物、水産物、発酵調味料のすべてにおいて、日本の食材のレベルの高さは素晴らしいですね。それが証拠に、日本を訪れた観光客の皆さんは、一様に「日本の食文化は素晴らしい」と言いますが、それは本心だと思います。

今まで、日本全国にお伺いし「食を通した地域活性化」のお手伝いをいろいろさせていただきました。

最近では、函館から車で1時間程度の漁師町「鹿部町」で、豊富な海産物を使った「昆布しゃぶしゃぶ」や「海鮮スープカレー」を開発させていただき大好評でした。同じく北海道ですが、「白老町観光大使」として、地元食材のおいしい食べ方のご提案をさせていただいたり、アイヌ民族博物館の敷地内で「アイヌ料理講習会」もさせていただいたりと、さまざまな機会に白老町をPRさせていただきました。

東北・岩手県では、2011年の東日本大震災での津波被害の大きかった「釜石市」や「大槌町」に伺って、素晴らしい食材を探して都内の大きな食事イベントで使わせていただいたのですが、素晴らしいコース料理が誕生しました。

宮城県や福島県でも、何度も震災復興イベントをさせていただきましたし、放射能の風評被害に苦しむ栃木県・那須高原でも、地元食材のPRイベントをさせていただき好評でした。

群馬県では、何カ所かの温泉地で名物料理の開発をさせていただきましたが、なかでも老神温泉で開発した「トマトフォンデュ鍋」は、地元の野菜をおいしく食べられるとたいへん好評でした。

新潟県・上越市では、味噌をつくるときに出る「たまり醤油」を使ったドレッシングソースを開発させていただき、20年近くの超人気ロングセラーになっています。

島根県・隠岐の島では、新鮮で上質な魚介類がいろいろ獲れるのですが、それぞれの漁獲量が少ないため、まとめて出荷することが難しいのがネックでした。それならばお客様に現地に来ていただき、その素晴らしさを味わっていただこうと考え、現地の飲食店や旅館でお出しできる地元の味噌をベースにした万能味噌ソースを開発させていただきご高評いただいています。

愛媛県・大洲市の山奥にある温泉地では、川の水がとてもきれいでクレソンがたくさん自生していることに目を付け、「クレソンのしゃぶしゃぶ鍋」を開発しました。これもとてもカンタンでおいしいと評判です。

高知県・四万十市では、野生の「仏手柑」を使ったドレッシングやポン酢を開発させていただき、かなりのロングセラーになっています。

広島県・北広島市では、昔ながらのドブロクをつくる酒蔵があるのですが、それをベースにした特製ソースを開発し、同市内で養殖しているサーモンやりんご、ブドウなどのフルーツと合わせると本当においしいです。

九州では「熊本県食の親善大使」を務めさせていただいています。2016年の熊本大地震の復興支援イベントも熊本各地でさせていただきました。熊本県とのご縁の始まりは、自然が豊かで風光明媚な「天草市」で、オリーブプロジェクトがスタートした2009年に遡ります。耕作放棄地や傾斜地にオリーブの苗を植え、将来的にはオリーブオイルの産地として地域活性につなげようという天草市からの要請で、定期的に天草市にお伺いするようになりました。天草市内の小学校、中学校、高等学校のすべてにお伺いして「食育オリーブ授業」をさせていただいたり、「オリーブオイルを使った学校給食のメニュー指導」などもさせていただきました。さらに、民宿や飲食店を経営されている方々向けの「オリーブオイルを使った料理講習会」も頻繁にさせていただきました。特に、豊富な海の幸を使った「ブイヤベース」や「パエリア」「オリーブラーメン」などは本当においしくて、それを食べたくてわざわざ東京から飛行機に乗ってお越しになるお客様もいらっしゃるほどでした。

そうした実績を評価していただき、熊本県から「食の親善大使」の称号をいただきまして、熊本県全体の活性化のお手伝いをさせていただく機会に恵まれました。

そんなあるとき、自然豊かな水俣市に食材探しでお伺いしたことがあるのですが、小高い山の中に、おひとりで畑仕事をしているお婆さんがいらっしゃるとお聞きし、訪ねた際の印象深いエピソードがあります。

案内してくださった水俣市の職員の方が「テレビでも有名な料理人さんを連れて来ました」と言いましたら、お婆さんは「そんな有名な方をおもてなしするようなものは、こんな山奥の田舎には何もないです」と申し訳なさそうにおっしゃいました。そして出してくださったのが、近くのおいしい湧水で淹れてくださったおいしいお茶と、朝堀の筍のお刺身、100年続く糠床で漬けたおいしいお漬け物でした。私はこれらをいただいて、そのおいしさに超感動しました。特に、100年続く糠床の糠は、文字どおり「最高」でした。こんな最高のおもてなしは、この山奥に来たからこそ体験できたのであって、都会ではいくらお金を払っても無理だと思った次第です。

日本全国にお伺いさせていただきましたが、この水俣市のように人口が激減し過疎化している場所ほど、豊かな自然の恵みがあふれ、魅力的であることに気がつきました。こうした過疎化した超魅力的な土地を世界中の多くの方々に知っていただき、微力ながらも私の専門である料理の世界から何とか遺していけたらと思っています。

今の時代、都会至上主義的な感じがありますが、私は過疎化した田舎にこそ、人間らしく暮らせる本当の安らぎがあると思っています。最近では、Uターン、Iターンを歓迎してくれる地方自治体も増えてきましたので、都会の生活に疲れたときには、過疎化している田舎をぜひ訪れてみてください。きっと、あなたを豊かな自然の恵みで温かく迎え入れてくれると思います。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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