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【連載】#11 価値観の違いを受け入れると、なぜ道は拓けるのか|唯一無二の「出張料理人」が説く「競わない生き方」

職業「店を持たない、出張料理人」、料理は出張先の素材を最大限に生かしたオンリーワンのレシピを考案して提供する――。本連載は、そんな唯一無二の出張料理人・小暮剛さんが、今までの人生で培ってきた経験や知恵から導き出した「競わない生き方」の思考法&実践法を提示。人生を歩むなかで、比べず、競わず、自由かつ創造的に生きていくためのヒントが得られる内容になっています。

※本連載は、毎週日曜日更新となります。
※当面の間、無料公開ですが、予告なしで有料記事になる場合がありますのでご了承ください。

世の中、いろいろな考え方、価値観の人がいるものです。あなたは、自分と考え方や価値観の違う人と意見がぶつかったときに、どう対応しますか?

日本人はどちらかと言うと、衝突を避けるために白黒ハッキリさせずに、中間色のグレーというか、あやふやに言葉を濁すことが多いようです。「和」を重んじるというか、人間関係を円滑にする意味では良い方法なのかもしれませんが、それが時として思わぬリスクが伴います。

私は世界100カ国近く訪れていますが、母国語が違う相手と話すとき、特に仕事絡みのときには、YES,NOをハッキリ言うようにしています。返事をあやふやにすると、大きな誤解を生む原因になったり、「コグレはやる気あるのか?」と相手に思われ、前に進めないことがあるからです。

今まで国内外で大手食品会社のいろいろな商品開発をしてきましたが、商品開発の世界でも、YES,NOをハッキリ言わないと話になりません。

「この商品は、うまいか、まずいか。売れるか、売れないか」

これをハッキリ言えないと、最終的にいい結果がついてきません。「この商品は、関西では売れるかもしれないけれど、関東では売れないかも」とか、「女性には受けるかもしれないが、男性には無理かも」みたいな、あやふやな表現の商品はまず売れません。「この商品は誰にでも絶対にウケる」とハッキリ言えないと、ヒット商品にはならないのです。これは、不思議なぐらい共通しています。

以前、韓国の大手食品会社「SPCグループ」の技術顧問として3年ほど、定期的に韓国にお伺いし、調理パンやスイーツ、洋風惣菜などのメニュー開発に携わらせていただきました。その頃は、日本の大手食品会社の技術顧問もやらせていただいていたのですが、「日韓で、こんなに価値観が違うのか」と思うことが何度もありました。

例えば、おいしいサンドイッチを、自信を持って10品提案したとします。日本の食品会社だったら、開発チームのメンバーが食べて「いいな」と思えば、「これ全部、商品化してみましょう」となるのですが、韓国で商品化されるのは、せいぜい2〜3品です。ストライクゾーンが狭いと言うか、伝統的な韓国の食文化を踏襲した味でないとダメなのです。いろいろな意見やフィードバックをもらうなかで、トマトソースでも、少しコチジャンを入れるとか、キムチをピザのトッピングに使うとか、韓国風の味付けをベースにすることが大切であることに気づきました。

やはり「郷に入れば郷に従え」の気持ちを持って、自分の考えを無理矢理押し付けるのではなく、謙虚に、相手が望み、納得するものをつくることが大切なのです。そのあたりを心得るようになってからはヒット商品を次々と生み出すことができるようになりました。

韓国で一度、ハンバーガーの商品開発をしたことがあるのですが、肉の厚さを変えたり、トッピングやソースを変えたりと、1日で30個ぐらい食べたことがあります。多くの人は「味見なんだから、6Pチーズみたいにカットして、1切れ食べればいいでしょ」と思われるでしょうが、ハンバーガーはガブリとかじりつき丸ごと食べてのおいしさですから、1切れ食べただけでは本当のおいしさはわかりません。韓国の商品開発チームの皆さんは、私の身体を張った商品開発する姿を見て「コグレは本当のプロだ」と思ったとのことです。

韓国では、身体を張った食品開発と、韓国の方々の嗜好、価値観に合わせることで、信頼を得られるようになりましたが、このときの経験は今にも生きています。

出張料理を始めたばかりの頃に、こんなエピソードがあります。よく利用してくださるお客様に、感謝を込めて高級食材である「キャビア」を使ったことがあります。すると、フォークで丁寧に避けて残されたことがあります。理由をお聞きしたところ、「食べ慣れていないから」とのことでした。以後、畑のキャビア「トンブリ(ホウキグサの実)」を使ったところ、「これなら大丈夫」と言われました。

またあるとき、デザートに「ブランマンジェ(ミルクプリン)」をお出しした際に「この歯応えのないもの、何ですか?」と言われたことがあります。私としては、口に入れた瞬間にとろける最高の出来だったので「何を言っているのだろうか?」と、一瞬意味不明でした。どうやら、そのお客様は缶詰の硬めの水羊羹しか食べたことなかったようでした。そこで私は、次の出張料理の際に、ゼラチンで硬めにつくったババロアをお出ししたところ、おいしいと喜んでくださいました。レストランだったら、「硬いババロアをつくるのは、プロではない」と料理長に怒られるでしょう。ただ、私のお客様は、出張料理ならではの、レストランに行ったことがない方も対象です。私の価値観を押し付けるのではなく、お客様が喜んでくださればそれが正解なのです。

もしあなたと価値観の違う人と一緒に仕事をしなければならないとき、相手の立場に立って、「相手が喜ぶことは何かを考える」ようにしてみてください。きっと相手もあなたに歩み寄り、円滑な人間関係になるでしょう。

そして何より、自分と違う価値観を受け入れると、自分の成長につながります。今まで出会わなかった価値観に出会うことは、貴重でありがたい体験でしかありません。一流の人ほど、自分の知らなかった価値観、新たな価値観に出会うことに喜びを感じています。なぜなら、自分の視野が広がるからです。視野が広がれば、その分、発想の翼が広がることになります。それは結果的に、自分の成長につながることを、一流の人ほど知っています。

どの仕事や業界においても、いつまでもくすぶっている人、成長が鈍い人は、自分が持っている価値観の中だけで生きています。自分が持っている価値観なんて、正直言ってとても狭い世界です。その狭い価値観にとらわれている限り、それ以上の成長は見込めないのは当たり前ですよね。

違う価値観と出会ったとき、成長のチャンスと思って興味を持てるか、それとも、違う価値観を避けて、今までの自分の狭い価値観だけ生きていくか。それは大きな差が出てくるのは自明の理でしょう。

私の年齢と仕事柄、多くの方より比較的多くの世界の人たちと付き合い、見てきた経験から考えるかぎり、違う価値観に対する考え方に、年齢は関係ありません。その人の心得と姿勢に尽きます。

若い人でも、違う価値観を避けてなかなか成長できない、狭い視野で生きている人もいれば、ベテランでも、違う価値観との出会いに喜んで興味を持ち、つねに視野を広げて成長している人もいます。

あなたはいかがですか?

違う価値観に出会ったときのあなたの心得と姿勢次第で、あなたの成長や視野の広さは大きく変わります。

【著者プロフィール】
小暮 剛(こぐれ・つよし)
出張料理人。料理研究家。オリーブオイルソムリエ。1961年、千葉県船橋市生まれ。明治学院大学経済学部卒業後、辻調理師専門学校を首席で卒業。渡仏し、リヨンの有名店「メール・ブラジエ」で修業。帰国後、「南部亭」「KIHACHI」「SELAN」にて研鑽を積み、1991年よりフリーの料理人として活動開始。以後、日本全国、海外95カ国以上で腕をふるう「出張料理人」として注目される。その土地の食材を豊富に使い、和洋テイストを融合させて、シンプルに素材の持ち味を生かす「小暮流料理マジック」に、国内のみならず世界中から注目が集めている。近年は、出張料理人として活躍しながら、地域食材を最大限に生かしたレシピ開発を通じた地方再生や、子どもたちの食育講座などを積極的に行なっている。また、日本におけるオリーブオイルの第一人者としても知られ、2005年には、オリーブオイルの本場・イタリア・シシリアで日本人初の「オリーブオイルソムリエ」の称号を授与している。その唯一無二の活躍ぶりは各メディアでも多く取り上げられており、TBS系「情熱大陸」「クレイジージャーニー」への出演歴も持つ。最終的な夢は、「食を通して世界平和を!」。

▼本連載「唯一無二の『出張料理人』が説く『競わない生き方』」は、下記のサイトで過去回から最新話まですべて読めます。


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