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10分でフワッとわかる、大ベストセラー『嫌われる勇気』から見る、「アドラー心理学」の要点

 国内300万部突破、10年連続ベストセラー入りし、世界40ヵ国以上の国と地域で翻訳され、累計1,000万部を超える世界的な大ベストセラーとなった『嫌われる勇気』( 岸見一郎 古賀史健著 ダイヤモンド社 2013年)をベースにした、アドラー心理学の要点を「フワッと、ふらっと」見ていきたいと思います。

 アルフレッド・アドラー(1870–1937)は、オーストリアの精神科医で、個人心理学(Individual Psychology)の創始者として知られています。

 日本ではこの個人心理学を「アドラー心理学」と呼ぶ場合が多いようです。

 アドラーは、心理学の巨匠であるジークムント・フロイトやカール・グスタフ・ユングと深い関係がありました。

 がしかし、最終的には彼らとは異なる心理学のアプローチを取ることになりました。

 人間の心理を理解するために、アドラー心理学では、個人の社会的役割や共同体とのつながりを重視し、劣等感の克服を成長の原動力と捉えるなど、その理論はフロイトやユングの学説とは異なる独自の視点を持っています。


1. アドラー心理学の全体像

 人は幼少期に大人たちと比べて身体的能力が劣ることから劣等感を抱きます。

 その劣等感を解消するために他人よりも優越することを望み、それが人生の目標となっていきます。

 劣等感はこのように正常な努力や成長を促すものとなるのですが、ただそれが過剰になるとハードルを乗り越えるやる気が失せ「どうせ自分はダメだ」とネガティブになる「劣等コンプレックス」となります。

 逆に劣等コンプレックスを解消するために、今までの業績や実績をことさらに誇示し、あるいはブランド物で自分を着飾るなどし、承認欲求を満たそうとする「優越コンプレックス」となる場合もあります。

 いずれにしても、生きづらいことでしょう。
 
 このような状態に陥らないように、他者への配慮、共感、愛情などを生み出す「共同体感覚」を持つことが重要であるとアドラー心理学では考えます。

2. 認知論(仮想論)

 アドラー心理学の認知論(仮想論)は、私たちが現実をどのように認識し、意味づけするかに焦点を当てた考え方です。

 アドラー心理学では、人は現実そのものではなく、それぞれ自分の経験や信念に基づいて現実を解釈し、その解釈に従って行動すると考えます。

 いわば人は、自分で作り上げたフィクションのストーリーの世界、仮想現実世界に生きているといえることでしょう。

 たとえば、ある人が「私は失敗者だ」と思い込むと、その考えが行動に影響を与え、失敗に対する恐怖や不安から新しい挑戦を避けるようになります。

 この考えは、必ずしも現実を正確に反映しているわけではなく、その人の主観的な「仮想」として存在します。

 アドラー心理学は、人々が行動するのは過去の経験の結果ではなく、現在の目的に基づいていると考える、原因論ではない、目的論的な視点を基礎としています。

 この「仮想」は、その目的に向かって行動するための道具と捉えることができます。

 たとえば、「成功しないと意味がない」という仮想がある人は、成功を目指して努力します。

 しかし、この仮想が過剰になるとハードルが高くなりすぎ、「やはり自分には無理だ。私はダメな人間だ」と感じ、自己評価が下がりやすくなる場合もあります。

 なお、この「仮想」は固定的なものではなく、自分自身で変えることができるものです。

 自分の思い込みや信念が自分を制限していると気づけば、新しい仮想を採用し、より積極的で前向きな行動を取ることが可能となります。

 例えば、「失敗は悪いことだ」という仮想を持っている人は、失敗を避けようとするため、挑戦する機会を逃すことがあります。

 しかし、「失敗は学びの一部だ」という仮想に変えることで、挑戦を恐れずに新しいことに取り組むことができるようになります。

 要するに、アドラー心理学の仮想論は、自分の現実の解釈や信念を見直し、それが自分にどのように影響を与えているのかを理解し、自分が頑なに思い込んでいたストーリーを書き換えることで、より充実した人生を送ることができる、という考え方といえることでしょう。

3.  過去にとらわれない

 アドラー心理学の核心には、「人は過去の経験や出来事に縛られる必要はない」という考えがあります。

 これは、過去の出来事が私たちの現在の生き方を決定するわけではないということです。

 人生とは連続する刹那であり、過去も未来も存在せず、過去にどんなことがあったかなどは、自身の「いま、ここ」には何の関係もありません。

 タイムマシーンがない限り、過去にも未来にもいけないわけですから、私たちはもっと「いま、ここ」だけを真剣に生きる必要があります。

 過去の失敗や後悔に思いを巡らせることは多いかもしれません。

 しかし、アドラーは、現在をより良くするために「今、どう行動するか」が重要だと説いています。

 これにより、人生の新たな章を前向きに進めることが可能となります。
 
 アドラーは「人生はこの瞬間にしか存在しない」と強調します。

 未来の不安や過去の後悔にとらわれるのではなく、今の自分がどう生きるかが重要です。

 「今この瞬間」をどう楽しみ、充実させるかが幸福の鍵となります。

4.  他人の期待に縛られない

 「嫌われる勇気」のタイトルが示すように、アドラー心理学では、他人の評価や期待に依存せず、自分の価値観に基づいて生きることが大切だとされています。

 誰しもが家族や社会からの期待や意見に左右されることが多くなりがちです。

 しかし、アドラーは他人の承認を求めすぎることをやめ、自分の人生を主体的に生きることが幸福につながると主張しています。

 他者の期待を満たすように生きることは、大小さまざまな不満はあっても、敷かれたレールの上を走るようなものなので、道に迷うことはなく楽かもしれません。

 しかし、全ての人の期待に応えようとすることは言い換えると、あらゆる他者に忠誠を誓うことと同義です。

 全ての人の期待に応えることは不可能であるため、期待に応えようとしても逆に期待を裏切ることにどうしてもなってしまい、自分を苦しめる結果にならざるをえません。

 不自由を強いることとなる、あらゆる他者の期待に応えようとする承認欲求を捨て、承認なき自由の道を選ぶと、今度は対人関係におけるコストとして、他者から嫌われる場合もあることでしょう。

 しかし、他人からどう思われるかを恐れるのではなく、嫌われる勇気を持って、自分がどう生きたいのかに焦点を当てることが自分の人生を生きる道となり、幸せになる勇気となります。

5.  課題の分離

 アドラー心理学の大きな概念の一つが「課題の分離」です。

 これは、自分の課題(責任)と他人の課題を区別し、他人の課題に干渉しないことを意味します。

 あらゆる対人関係のトラブルは、他者の課題に土足で踏み込むこと、そして自分の課題に他者が土足で踏み込んでくることから引き起こされます。

 他者はあなたの期待を満たすために生きているわけではなく、またあなたも他者の期待を満たすために生きているわけではありません。

 他者の課題には介入せず、また自分の課題には他者を介入させない。

 これが対人関係の悩みを一変させる可能性を秘めたアドラー心理学の要諦となります。

 家族や友人、同僚、上司、部下等の問題に深く関与したとしても、それが必ずしも良い結果をもたらすわけではありません。

 自分の課題に集中し、他人の課題はその人自身に任せることが、健全な人間関係を築く鍵となることでしょう。

 なお、アドラー心理学のカウンセラーは、『嫌われる勇気』によると、もちろんクライエントの援助は精一杯やるけれども、その先、つまり最終的にカウンセリングを受けたクライエントがどのような決心をするのか、ライフスタイルを変えるのか、それとも変えないのかのは、クライエント本人の課題であるため、本人の自主性に任せ、カウンセラーの課題ではないと考えるとのことです。

 イギリスに「馬を水辺に連れて行けても、水を飲ませることはできない」という古くからのことわざがあります。

 このことわざは、他人は援助はできても、決断するか否かは本人しだいだという意味で、本人の意に反しているのに、変わることを他人が強要しても、反発を招くだけであるので、アドラー心理学では他者への援助も、そのようなスタンスで行うとのことです。

6. 人間関係は対等であるべき

 アドラー心理学では、人間関係は「上下関係」ではなく「横の関係」、つまり対等な関係であるべきだと考えます。

 年齢や経験に関わらず、すべての人が対等な価値を持っているという考え方です。

 これにより、過剰な優越感や劣等感から解放され、互いに尊重し合う関係が築かれます。

 アドラーはこうした横の関係に基づく援助のことを「勇気づけ」と呼んでいます。

 対人関係の軸に上下関係や競争を置くと、人は対人関係の悩みから解放されることがありません。 

 また競争を常に意識すると、あらゆる人に勝つことはできないため、劣等感が必然的に生まれてきます。

 勝った負けたの世界ばかりだと劣等コンプレックスやその裏返しとも言える優越コンプレックスが生まれ、いつしか他者全般、ひいては世界のことを敵とみなすようになってしまいます。

 たとえ勝ち続けていたとしても、いつか負けるのではないか、敗者にはなりたくないという気持ちでいっぱいとなり、他者を信じることができない、世界が敵で満ち溢れている危険な場所となり、気が休まる暇がなくなります。

 しかし実際は、他者はそして世界は敵だらけではありませんし、そもそも人は他人のことをそんなに気にしておらず、また人々は私の仲間だと実感できれば、自分の世界観(ライフスタイル)もよい意味で変ってくることでしょう。

 対人関係の軸に競争を置く人がこのように考え方を変えれば、世界が危険な場所でなくなります。

 世界が安全で快適な場所に見え、心から安心でき、対人関係の悩みも減っていくことでしょう。

7.  共同体感覚

 他者を仲間だとみなし、そこに自分の居場所があると実感することを「共同体感覚」といいます。

 他者や社会とのつながりを感じ、その中で役割を果たしていくという感覚です。

 ここでいう「共同体」とは、家庭や学校、職場、地域社会だけでなく、国家や人類、地球、宇宙、過去から未来まで包含した、まさにありとあらゆる「すべて」のことを指すとアドラー心理学では考えます。

 人は「共同体にとって私は有益である」「自分は他者に貢献できている」と主観的に思えたときに、自身の価値と真の生きがいを実感することができます。

 共同体とのつながりを感じ、自分がその一員であるという意識が、心の健康や幸福感に大きな影響を与えます。

8.  自己受容

 「自己受容」とは、自己のありのままの姿を受け入れることです。

 背伸びした自分を自分に暗示をかけて無理やりに受け入れる(これは「自己肯定」といいます)という意味ではなく、裸の自分、無邪気な自分、自分のありのままの姿を受け入れることが「自己受容」です。

 アドラーは「自分に価値があると思えるときに人は勇気を持てる」と言います。

 そしてそう思えると、自信をもって共同体との関係の中に入っていくことができます。

 世間一般でいう際立った業績や経歴などがなくても、そもそも人は「いまここに存在している」というだけで、誰かの役に立ち、価値があります。

 業績や経歴といった「行為」ではなく「存在」に目を向けます。

 とても親しい人のことを思い浮かべてみましょう。

 昔からの友人で親しいけれども、ずば抜けた才能や魅力、財力があるわけでもなく、とりわけあなたに経済的な利益をもたらす人でもなく、逆にあなたがその人を助ける場面が多くあり、それでも腐れ縁でどこか憎めず繋がっているという人をイメージして頂ければと思います。

 その人の旅行先で災害や事故があったとニュース番組で伝えられた時、あなたは「あの人大丈夫なのか!」と、とても動揺することと思います。

 しかし、その人が無事に帰ってきて、あなたににっこり微笑んだときあなたはどう思うでしょうか?

 「この人がいてくれるだけで良かった」と思うのではないでしょうか。

 であるなら、その人は「いまここに存在している」というだけで価値があり、それはあなたも同様だと言えます。

 自己受容を通じて、自分の人生の価値を再認識し、いまここに生かすことが可能になります。

9.  他者信頼

 「他者信頼」は、一切の条件をつけることなく他人を信じ、相互に心を開くことです。

 裏切られるのではないかという不安があるかもしれませんが、裏切るか否かは相手の課題であって、自分の課題ではありませんので、課題の分離をする必要があります。

 関係を深くしたくないと思う相手であれば、関係を断ってしまってもかまいません。

 関係を断つか否かは自分の課題であるので、自身で選択することができるからです。

 中高年や高齢者にとって、信頼できる他者とのつながりは、特に重要です。

 年齢とともに健康の不安や孤立感が増すことがありますが、信頼できる人との関係を築くことで、支え合う環境が整います。

 他者を信頼することで、自分も信頼される存在となり、心の安定が得られます。

 家族や友人との関係を深めたり、職場や近隣の人々、のみならず趣味やボランティア活動を通じて新しい人間関係を築くことが他者信頼の実践です。

 信頼し合う関係は、日々の生活を支え、困難な時にも助け合う力となります。

10.  他者貢献

 「他者貢献」は、他者や社会のために何かを働きかけること、貢献しようとすることです。

 他者貢献は、自らを犠牲にすることではなく、むしろ自身の価値を実感するために行うものです。

 ここでいう他者貢献とは、目に見える形の貢献でなくてもよく、主観的な「私は誰かの役に立っている」という感覚、つまり「貢献感」ことを指します。

 実際に役立っているか否かは他者が判断すること、つまり「他者の課題」であって、自分ではコントロールできないことですし、そもそも本当に他者に貢献したかどうかの判断など原理的にできようものでもありません。

 他者からの賞賛の声を実際に求めたいという気持ちはまさに承認欲求であり、それを通じた貢献感には自由がなく、他者に従属する道となってしまいます。

 「誰かの役に立っている」という主観的な感覚である貢献感があればそれでよく、それがあれば承認欲求も消え去ることになります。

 他者貢献は、「誰かの役に立っている」ことを実感し、自分の居場所を見つけ、自身の存在価値を受容するためのものです。

 自身の知識や技術、技能、経験、スキル、思いやり、笑顔、優しさなど自分が現に持っているものを、誰かのために活かすことは、社会的な意義や充実感を感じるきっかけとなり、自尊心を高めます。

 他者貢献を通じて得られる感謝の気持ちは、自分の存在価値を強く再確認させてくれるでしょう。

 ありのままの自分を受け入れる(自己受容)ことにより、裏切りを恐れることなく他者を信頼することができ、そうして他者を無条件で信頼することにより、他者は敵ではなく仲間だと思え、その仲間である他者のために貢献することができる。

 他者貢献をすることにより、「誰かの役に立っている」ことを実感でき、自分の居場所を見つけ、ありのままの自分の存在価値を受容することができる。

 自己受容、他者信頼、他者貢献はこのように、どれひとつとして欠かすことのできない円環構造として結びついています。

 このことは、「私が変れば世界が変わる、世界はほかのだれかではなく、私によってしか変わりえないものである、私の力は果てしなく大きい」と言い換えることができることでしょう。

 これが腑に落ちれば、眼前に広がるのは、かつての世界ではもはやなく、鮮明な新しい世界であることでしょう。

「共同体感覚」「自己受容」「他者信頼」「他者貢献」は、どの年代においても大切ですが、特に中高年や高齢者にとっては、人生の新しい段階を迎える中でこれらを意識することが、心の健康や人生の充実感を高めるための重要な鍵となります。

 他者と共に歩みながら、自分自身を大切にし、豊かなつながりを築くことで、より幸せな日々を送ることができるでしょう。

 アドラー心理学は、過去や他人にとらわれず、主体的に人生を生きることの重要性を強調しています。

 自分の価値を再認識し、自分らしい人生を歩む勇気を持つことで、人生をより豊かに生きることができることでしょう。

参考文献)『嫌われる勇気』Kindle版

 参考文献)『嫌われる勇気』書籍版

 参考文献)『幸せになる勇気』書籍版

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