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大学・大学院・教育・研究のあれこれ

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#大学

「実力も運のうち 能力主義は正義か?」

有名大学に合格した学生が,合格したのは自分の才能と努力のおかげであり,自分の才能と努力は賞賛されるに値すると考える.金儲けに成功した人が,成功したのは自分の才能と努力のおかげであり,自分の才能と努力は賞賛されるに値すると考える. より一般的に,自分自身の成功は,幸運や恩寵によるものではなく,自分自身の努力にって獲得するものである.富や名声や権力を自分の力で手に入れた自分は,それらにふさわしい人間である. こういう能力主義(メリトクラシー,功績主義)的な考え方に反感を抱く人が

海外出張で地獄を見た事件

大学教員として地獄を見た.その事件からちょうど1ヶ月が経ったので,記録に残しておく.大学の教員や学生の参考になればと思う. 2023年8月中旬,制御工学応用の国際会議 IEEE CCTA に参加するため,バルバドスに滞在した.修士課程の学生1名と私自身がそれぞれ研究発表を行い,カリブ海リゾートの島国バルバドスを大いに楽しみ,充実した日々を過ごした.帰国日までは... 学生のビザの関係で,学生と私は異なる航空会社を利用した.学生はアメリカン航空,私はエア・カナダだ.ホテルも

「大学は何処へ 未来への設計」で過去を学び未来を考える

この20年ほど改革を迫られ続けて今や疲弊の極みに達している,そして実際に論文数はガタ落ちになっている(それでも「改革が足りないからだ!」とか言えてしまう人達に囲まれている),日本の大学の将来を考える上で,まずは過去を知る必要がある.その観点から,とても勉強になった.というか,これまで知らなさすぎた. 著者である吉見俊哉氏は,現状を以下のように指摘している. では,1930年代以前はどうだったのか. 明治時代以降,旧制高等学校が,高等教育機関として,帝国大学を中心とする旧

研究のために「音楽の基礎」を身に付ける

研究室の学生が音楽に関連する研究をしたいと直談判に来て,どのような研究がしたいのかを聞いたところ,これまで研究室で取り組んできた研究および学生自身が取り組んできた研究と接点がないわけでもないので,「やってみよう!」ということになった. その研究では「音楽理論」を使うらしいので,指導教員として音楽理論をまったく知らないわけにはいかない.というわけで,音楽のことは何も知らず,楽器を弾くことがないばかりか,音楽を聴くこともあまりない私が勉強することにした.何から手を付けていいかす

卒業論文や修士論文を書く学生へ

毎年,10名以上の学生の修士論文や卒業論文を添削する.これまで添削していて気になったことを,Twitterなどに書き散らかしたりしてきたが,まとめてメモしておく.(以下の文章は2015年2月に書いたものを編集したものです) 第1段階:正しく書く 論文に限らず,文章を書くときには,正しい言葉で書くことを常に意識すべきだ.読みやすいとか,分かりやすいとか,それらも当然大切だが,それら以前に,正しくなければならない. 誤字脱字のある論文原稿やレポートを書く人には,「そういうケ

男女雇用機会均等法における女性限定公募についてのメモ

大学では女性教員比率が低すぎることが問題になっていることがある.例えば,工学研究科の教員はほとんどが男性であり,世の中のほぼ半分は女性であるのにけしからんというお叱りはあるかもしれないが,大学院生の女性比率も低いので,女性教員比率を劇的に高めるのは簡単なことではない. そう言えば,先日テレビで,某芸術系大学では,女子学生が男子学生に比べて圧倒的に多いのに,教員はほぼ全員が男性であると指摘されていた.女子学生からは,男性目線でしか作品が評価されない,こんな業界にいても仕方がな

運転時居眠り検知技術について解説しよう:電気通信普及財団賞受賞

折角なので,この記事では運転者の居眠りを検知する方法を紹介しよう.素人向けに書くので,玄人は黙っていてもらいたい. 表題の通り,ウェアラブル心電計を用いて運転中の居眠りを検知し,交通事故をなくそうという研究の成果にて,電気通信普及財団賞(テレコムシステム技術賞)を受賞した.今回授賞対象となったのは,IEEE TBMEに掲載された以下の論文だ. Fujiwara, K., Abe, E., Kamata, K., Nakayama, C., Suzuki, Y., Yama

日本鉄鋼協会 計測・制御・システム研究賞を受賞

「モールド内溶鋼流動のリアルタイム推定」の研究成果にて,日本鉄鋼協会 計測・制御・システム工学部会より,部会賞である計測・制御・システム研究賞を受賞した.これは,JFEスチールの橋本佳也氏が中心となって取り組まれた研究の成果である. 本研究成果は論文として Metallurgical and Materials Transactions B にて発表している. Y. Hashimoto, A. Matsui, T. Hayase, and M. Kano, “Real-T

化学工学会技術賞を受賞:高炉操業支援

「高炉溶銑温度制御ガイダンスの実用化」という業績にて,化学工学会技術賞を受賞した.この技術開発と実用化には,JFEスチールの橋本佳也氏が中心となって取り組まれた.成果の一部は,橋本氏が当研究室(京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻・ヒューマンシステム論分野)で社会人博士課程に在籍されていた当時のものである. 以下で,この技術について簡単に紹介する. 開発の背景鉄鋼製品の原料である鉄は,鉄鉱石(酸化鉄)とコークス(炭素)を高温で反応(還元反応:酸化鉄+炭素→鉄+二酸化

【論文紹介】連続直打プロセスの管理戦略

今,注目を集めている医薬品連続生産技術.日本医療研究開発機構(AMED) 医薬品等規制調和・評価事業「医薬品の新規開発と製造変更における品質管理手法に関する研究」の一部として,特に直打プロセスを対象に連続生産の管理戦略とその実装方法について検討した成果が論文として公開されました.滞留時間分布モデルを中心にまとめられています. Y. Suzuki, H. Sugiyama, M. Kano, R. Shimono, G. Shimada, R. Furukawa, E. Ma

【論文紹介】仕事上の習慣と睡眠負債

Frontiers in Public Health に後藤さん(修士課程2回生:掲載時)の論文が掲載されました.名古屋大学および滋賀医科大学の先生方との共同研究成果です. ある会社で働く218名の活動データと質問票を解析した結果,仕事の仕方が平日睡眠負債の要因となっていることを示したという内容です. Y. Goto, K. Fujiwara, Y. Sumi, M. Matsuo, M. Kano, and H. Kadotani, Work Habit-Relate

開成中学高等学校での講演

淑徳与野高校での講演の(そして夕食難民になった)翌日,開成中学高等学校で講演させていただいた.入学試験明けの休校日にもかかわらず,中高の生徒さんのみならず,校長先生にも参加していただき,2時間の講演と1時間の質疑応答で,しゃべりまくった. 講演時間が2時間あるので,研究の紹介も詳しくした.かなり難易度は高めで,特に中学生には難しかったと思う. 物理モデルと統計モデルを併用するグレイボックスモデル 多変量統計的プロセス管理(MSPC)による異常検出 サロゲートモデルによ

淑徳与野エンカレッジ講座に参上

淑徳与野高等学校の先生から声を掛けていただき,同校の「淑徳与野エンカレッジ講座」で講演する機会に恵まれた.埼玉県さいたま市にある仏教系の中高一貫女子校だ.女子校に踏み入るのは,京都女子大学の学園祭以来ではないかと思う. 講座当日(2021/2/17)は,弊学情報学シンポジウムの開催日で,システム科学専攻長として私が担当する閉会挨拶が講演時間に重複したため,講演の前半を弊社・クアドリティクス株式会社代表取締役CEOの林が,講演の後半を私が担当することになった. 淑徳与野エン

日本鉄鋼協会澤村論文賞を受賞

日本鉄鋼協会(ISIJ)の英文ジャーナル"ISIJ International"に採録された論文が,2020年の澤村論文賞に選ばれたとの連絡があった. Yoshinari Hashimoto, Yoshitaka Sawa, Manabu Kano: Online Prediction of Hot Metal Temperature Using Transient Model and Moving Horizon Estimation ISIJ International