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大学・大学院・教育・研究のあれこれ

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記事一覧

認知症を学びに行って衝撃を受けた:ユマニチュード・認知症基本法・レカネマブ

ユマニチュードの実践動画で,重度と思われる認知症の患者さんの様子が激変するのを見て,衝撃を受けた.広い会場は超満員(400名以上参加していたはず)で,その多くは看護師だったと思うが,驚いているのがハッキリと伝わってきた. ユマニチュードユマニチュード(Humanitude)は,1979年に当時フランスの体育学教師であったイヴ・ジネスト氏とロゼット・マレスコッティ氏の両名によって生み出された,認知症の方へのケア技法で,日本では2014年頃から普及しはじめたとされる. このケ

研究の面白さと辛さを感じられる「赤と青のガウン」

彬子女王殿下のオックスフォード大学留学記で,1年間の学部留学に加えて,大学院に進学して日本美術を専攻して博士号を授与されるまでの体験が描かれている.研究の楽しさと大変さが大いに感じられる体験記だ.是非,高校生や大学生に読んでほしいと切に思う. 宮家が海外留学すると護衛はどうなるのかとか,エリザベス女王にバッキンガム宮殿でのお茶に招かれたら服をどうするのかとか,とても興味深いエピソードが続く.これだけでも実も興味深く,読んでみる価値がある. しかし,本書「赤と青のガウン オ

「核融合エネルギーのきほん」を学ぶ

核融合には期待している.いつ実現するかはわからないけれども.再生可能エネルギーとして,太陽光や風力は既に利用されているが,日本国内の状況を見ると,ソーラーパネルによる自然破壊が横行しており,人間の愚かさしか感じない. 本書「核融合エネルギーのきほん」を読んで,核融合発電の実現に向けた現在の状況をおおよそ把握することができた. 核融合の実現に向けて,いくつもの方式が検討されている.トカマク,ヘリカル,レーザーなど.最も研究開発が進展しているのがトカマク方式で,核融合エネルギ

「実力も運のうち 能力主義は正義か?」

有名大学に合格した学生が,合格したのは自分の才能と努力のおかげであり,自分の才能と努力は賞賛されるに値すると考える.金儲けに成功した人が,成功したのは自分の才能と努力のおかげであり,自分の才能と努力は賞賛されるに値すると考える. より一般的に,自分自身の成功は,幸運や恩寵によるものではなく,自分自身の努力にって獲得するものである.富や名声や権力を自分の力で手に入れた自分は,それらにふさわしい人間である. こういう能力主義(メリトクラシー,功績主義)的な考え方に反感を抱く人が

日田市大山町の方々が素晴らしかった

3泊4日で大分と日田を訪れた.日田市大山公民館での講演とその後の懇親がとても刺激的で素晴らしい体験だったので,記録しておく. 5月9日午後に京都から大分まで移動した.まず,新幹線で小倉まで,そこから大分までは特急「ソニック」を利用した.ソニックが揺れすぎる.とても酷い.JR特急に乗る機会は少ないが,乗れば揺れる印象がある.私が揺れに弱いのもあるが,とてもパソコン作業ができる状況ではないし,本も読めない.どうやら「振子」が原因らしい. こんなことなら飛行機を使うべきだったか

データ解析者の心得: 製造DXの初歩の初歩

随分と長い間,主にプロセス産業の製造現場のデータを対象として,様々な解析を行ってきた.今でも,いくつかの企業と一緒にデータ解析をしている.特に最近は,製造DX実現を掲げての依頼が多い.これまで,多くの成果をあげてきたし,それ以上に多くの失敗もしてきた.その経験を踏まえて,製造プロセスのデータ解析をしようという技術者に「これだけは伝えておきたい」ということがある.それを「3つの心得」としてまとめておくことにした.もっと詳しく知りたいという人がいれば,私の講演を聞いて下さい.

研究室紹介(2):製造技術,人工知能,医療・ヘルスケア

研究室紹介のつづき.主な研究内容について述べる. 産業界の課題を解決するここまでに述べてきたような思考やフレームワークを用いて,私自身はデータ活用を推進してきた.ここでは,研究成果の一部を紹介する. 製剤関連では,第一三共株式会社と共同で実施してきた一連の研究がある.最初に取り組んだのは,プロセス解析工学(PAT)の研究開発である.私がこの分野に入り込んだ当初,あちこちの国際会議で,ポテトチップスの写真を見せられ,なんと自虐的な集団なのだろうと思った.共同研究では,近赤外

研究室紹介(3):システム工学思考で課題を解決する

研究室紹介のつづき.これが最後. スーパー安納いもプロジェクトを推進する医療だけでなく,農業分野にもシステム工学的アプローチを展開している.対象としている農産物は極めて限定的で,種子島産の安納いもである.サツマイモの一種である安納いもは,ねっとりとした食感と強い甘味が特徴で,焼き芋や天ぷらにすると美味しく,スナック菓子や惣菜パンにも使われており,全国的に人気である.しかし,現状の抜き取り検査による品質保証は十分な水準にはなく,競合する新品種も次々に現れていることから,生産農

研究室紹介(1):課題解決型の応用研究を志す

京都大学大学院情報学研究科にある研究室(ヒューマンシステム論分野)の紹介をしてみる.研究室の公式ウェブサイトをまったく更新していないのだけれども,ある学会から研究室紹介記事を書くようにとの依頼があって,意を決して書いたので,その原稿を編集した内容をここに残しておくことにする. 課題解決型の応用研究を志す私が大学院修士課程に在学していたとき,橋本伊織先生(当時の教授)から「加納君,基礎研究の対極は応用研究か?」と尋ねられた.私は「そりゃそうでしょ」と思った. 研究には基礎研

海外出張で地獄を見た事件

大学教員として地獄を見た.その事件からちょうど1ヶ月が経ったので,記録に残しておく.大学の教員や学生の参考になればと思う. 2023年8月中旬,制御工学応用の国際会議 IEEE CCTA に参加するため,バルバドスに滞在した.修士課程の学生1名と私自身がそれぞれ研究発表を行い,カリブ海リゾートの島国バルバドスを大いに楽しみ,充実した日々を過ごした.帰国日までは... 学生のビザの関係で,学生と私は異なる航空会社を利用した.学生はアメリカン航空,私はエア・カナダだ.ホテルも

機内食の事前予約はいいぞ フードロスも減らせるだろう

今回のシドニー出張で初めて「機内食の事前予約」を利用してみたのだけど,機内メニューにはない料理も注文できるし,フードロス削減に貢献している感もあるし,良いことしかなかった.航空会社は「機内食の事前予約」をもっと強く乗客に勧めたらいいのにと思った. コロナ禍期間を除くと,年に3回くらいの頻度で海外出張をしてきた.なのに,これまで機内食を事前予約したことがなかった.今回,シドニー滞在中に機内食事前予約サービスがたまたま目に入ったので,利用してみることにした. 帰国するために搭

「大規模言語モデルは新たな知能か」の前に,LLMの凄さの秘密を問いたい

ChatGPTが世界を変えた,そして変え続けているのは確かだろう.あの流暢な文章生成能力,間違えながらも何にでも回答する能力,他のサービスと連携することで際限なく拡張できる能力など,とんでもなく凄まじい. 昨日(2023/7/21),私が企画担当の1人であった某研究会で,国立情報研究所所長(京都大学教授)の黒橋先生に大規模言語モデルの現状,仕組み,将来について講演していただいた.講演後の質疑応答とその後の討論会では,黒橋先生が質問攻めにあわれていた.皆,とても強い興味を持っ

「ANTHRO VISION」人類学的思考法を身に付けるともっと強くなれる

大いに学ぶものがあった.新しいモノの見方を与えてくれる素晴らしい本だ.社会人類学で学位を取り,Financial Times誌の米国編集委員会委員長を務める著者が,人類学を通して身に付けた観察方法や思考方法,物事へのアプローチの仕方が,ビジネスの世界でいかに役立つかを,豊富な興味深い事例と共に解説している. 日本での事例も紹介されている.キットカットだ.世界中で食べられているキットカットだが,以前,日本では売上げが伸び悩んでいた.ネスレのグローバル本社の偉い人達にはその理由

備忘録:2023度の国際会議

2022年12月17日現在の情報.2023年度に自分が参加するかもしれない国際会議の情報をメモしておく.網羅性はないので注意を. 分野としては,プロセスシステム工学(Process Systems Engineering),化学工学(Chemical Engineering),制御工学(Control Engineering),機械学習(Machine Learning),データ解析(Data Analytics),自然言語処理(Natural Language Proce