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日本鉄鋼協会澤村論文賞を受賞
日本鉄鋼協会(ISIJ)の英文ジャーナル"ISIJ International"に採録された論文が,2020年の澤村論文賞に選ばれたとの連絡があった.
Yoshinari Hashimoto, Yoshitaka Sawa, Manabu Kano:
Online Prediction of Hot Metal Temperature Using Transient Model and Moving Horizon Estimation
ISIJ International, Vol.59, No.9, pp.1534-1544, 2019
第一著者の橋本佳也氏は,JFEスチールに所属しつつ,当研究室(京都大学大学院情報学研究科システム科学専攻・ヒューマンシステム論分野)で社会人博士課程に進学し,2019年に博士(情報学)の学位を取得された.今回の受賞論文は,その学位論文の一部である.日本鉄鋼協会のウェブサイトには,受賞理由が以下のように記載されている.
-受賞理由-
高炉の安定操業においては、溶銑温度を適切に制御する必要がある。高炉溶銑温度は低くなりすぎると出銑口からのスラグ排出に問題を生じ、その温度が高くなりすぎても、大量の燃料消費とCO2排出が発生してしまうため、その温度制御は非常に重要な管理項目であると言える。
著者らは、高炉の溶銑温度安定化を自動制御する技術の創出を目的として、新たに溶銑温度予測のための1次元非定常物理モデルを作成した。モデル精度向上のために、主成分分析とリスト線図を用いてモデルの誤差を検討し、主に還元材比と還元効率の変動で説明ができることを突き止めた。この変動要素に関わるパラメーターを過去に遡って逐次修正することで、外乱影響を適切にモデル計算に反映させて、モデルを高精度化し、リアルタイムでの8時間先の予測を可能とした。
開発された本手法は、既存の統計モデルでの長時間未来予測が困難であった問題を解決し、一般的な物理モデルで課題となる原料変動などの外乱による精度低下を克服した、実用に耐える汎用性の高い内容であり、さらなる技術的発展も期待できる。理論性も高く評価でき、学術論文としての貢献度は非常に高いため、本論文は澤村論文賞にふさわしいと判断できる。
高炉は,酸化鉄を還元することで鉄を生産する,鉄鋼製造プロセスの中核設備である.しかし,その運転は非常に難しく,長らく,自動化の実現が課題とされてきた.
本研究は,この課題を解決するものであり,高炉の物理モデルを構築し,操業の鍵を握る溶銑温度の高精度な将来予測を実現した.もちろん,予測するだけでは不十分で,その予測値を利用して,最適な操業条件を求めなければならない.これについては,非線形モデル予測制御を活用することで,運転支援システムを実現している.もちろん,その研究成果についても発表している.
この受賞論文を含めた一連の研究成果は,生産現場において,非常に複雑な製造設備をいかに扱うべきかについての指針を与えるものである.昨今,ビッグデータやデータサイエンスが注目され,とにかくデータを解析することで問題を解決しようとする傾向が強い.もちろん,それで解決できる問題もあるが,万能ではない.対象プロセスの理解を深めるという観点からも,物理モデル(第一原理モデル)を構築するという王道を忘れてはならない.そのことを再認識させてくれる研究成果である.
Twitter等でいつも述べているが,学生があまりにも優秀なので,私が為すべきことは学生の足を引っ張らないことである.それに尽きる.
© 2020 Manabu KANO.