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海外出張で地獄を見た事件

大学教員として地獄を見た.その事件からちょうど1ヶ月が経ったので,記録に残しておく.大学の教員や学生の参考になればと思う.


2023年8月中旬,制御工学応用の国際会議 IEEE CCTA に参加するため,バルバドスに滞在した.修士課程の学生1名と私自身がそれぞれ研究発表を行い,カリブ海リゾートの島国バルバドスを大いに楽しみ,充実した日々を過ごした.帰国日までは...

学生のビザの関係で,学生と私は異なる航空会社を利用した.学生はアメリカン航空,私はエア・カナダだ.ホテルも別で,私は学会会場となったヒルトンホテルに,学生はその近くのラディソンホテルに宿泊した.

学会が終わった翌日から,私は,ブリッジタウン→トロント(一泊)→バンクーバー→関西国際空港,という長旅の末に帰国する予定だった.

学会は金曜日までで,土曜日にバルバドスを離れることになっていた.ところが,別ホテルに宿泊している学生と金曜日から連絡が取れなくなり,学生が行方不明になった.ただ,このときはまだslackを確認していないだけだろうと思っていた.

土曜日の昼になっても連絡がつかないため,バルバドス出国前に空港からホテルに電話して,事情を話して,学生がチェックアウトしたかどうか確認した.個人情報保護の問題があるので,このような問合せには原則として答えられないらしかった.それでも事情が事情なだけに,回答してもらえた.どうやらチェックアウトはしたらしい.だとすれば,乗るべき飛行機に乗るだろう.一安心だと思った.

なお,電話で学生の氏名を伝えるのが難しかった.私の発音が悪いことが最大の原因ではあるが,氏名のスペルがなかなか伝わらなかった.

その後も学生と連絡が取れなかった.私がブリッジタウンからトロントへ移動した後,空港近くのホテルで一泊し,日曜日の朝になっても連絡が取れない.これは何かトラブルが発生したのではないかと不安になり,アメリカン航空に電話して,学生の名前を伝えて,搭乗記録を調べてもらった.すると,なんと,そのような名前の人物は搭乗していないとのことだった.

完全にパニックに陥った.この状況は危機でしかない.

所属する情報学研究科が契約している日本アイラック株式会社の海外危機管理サービスに私も学生も加入しているので,国際ホットラインにホテルから国際電話(日本へ)をかけた.ホテルの客室に備え付けの電話から.

そして,学生と連絡が取れないこと,搭乗記録に名前がないことを伝えた.対応を決めるのに2時間ほどかかったが,とりあえず,

  • 日本アイラックから学生に連絡を試みる.

  • 私からも連絡を試みる.

  • 私がバルバドスに戻っても意味あることはできないので帰国する.

  • 学生の状況がまったくわからないので,できることは限られるが,日本アイラックで対応を検討する.とにかく,連絡を試みる.

ということになった.

この方針が決まったところで,ダッシュでトロント国際空港へ向かい,バンクーバー行きの便に乗った.乗っている間も気が気でない.

バンクーバーに着いて国際線ゲートに向かい,エアカナダのラウンジに入り,まだ学生から連絡がないことを確認して,研究科長と事務長に状況を伝えるメールを送信した.学生を見失うという失態を演じてしまったことを詫びつつ,指示を仰いだ.

もう完全にテンパっていた.

そのラウンジを出る準備をしようかと思ったそのとき,学生から「羽田につきました.slackは見てませんでした」とのメッセージが届いた.無邪気に...

すぐさま研究科長と事務長に無事確認の一報を入れ,その後,日本アイラックの担当者にも連絡して,一件落着となった.

激しく神経を消耗した.人生で最悪かもしれないくらいに.

ちなみに,カナダで国際電話をかけることなど想定していなかったので,それに安いのを調べるような余裕もなかったので,ホテルの電話を普通に使ったら,請求額が410ドルになっていて,私よりもフロントのお姉さんが驚いて,マネジャーを呼びに行って,電話会社と交渉するとかいう話になって,これはこれで大事だった.


これが,地獄を見た事件の経緯である.

なお,アメリカン航空の搭乗記録に名前がなかった点については,いまだにその理由がわからない.対応したスタッフが適当臭かったのか,正しく名前を伝えられていなかったのか,そのあたりが原因かもしれない.

幸いにも学生が無事だったので笑い話として話せるが,渦中にいるときは精神的に追い詰められて極めて厳しかった.

この事件を経て,私自身は海外出張中の連絡手段確保や危機管理について改めて検討することにした.二度とこんな目に遭いたくはない.大学の教員や学生の皆さんには参考にしていただければ幸いである.

© 2023 Manabu KANO.

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