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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2024年9月の記事一覧

湯あたり。

湯あたりで悪夢にうなされていた。 過呼吸で目が覚め、心臓の致死的な鼓動で金縛りを破る。額…

煙草。

猫が煙草を吸っていた。 「珍しい猫だね」 僕は火柱が落ちる轍に注意を払いながら、その首元…

ワニ男。

「時々、本当に自分がワニなんじゃないかって思うことがあります」 ワニ頭の男は、まるで凪を…

移動軸。

目が覚めた時、知らない場所にいることが好きだった。覚醒と夢見が混ざり合い、自分がいったい…

弔い。

「お墓にある花は、誰が弔うの?」 お盆でもないけど、墓地の駐車場にはぱらぱらと車が駐まっ…

協奏。

ヴィヴァルディは胎教に良いらしい。雑誌に寄稿された小説だったか、バラエティの切れ端か、ソ…

トリレンマ。

「覚悟はできています」 リーダーは椅子に深く腰掛け、僕を見上げている。その表情は毅然としているが、そこはかとない人情が皺に滲み出ている。 「……私にはね、たくさんの同志がいたよ。夢を語り合い、勝利を信じて疑わなかった、かけがえのない同志達が」 リーダーの視線には、理屈では説明しきれない威厳が宿っている。 「しかし、今こうして心臓を打ち鳴らしているのは、私一人しかいない。その意味が分かるかね?」 「誰よりも強い覚悟を、リーダーは……」 「その逆だよ」 リーダーは咳払

不眠の神様。

「お前は俺に、愛されてしまったのさ」 彼は自らを不眠の神様と名乗った。 「でも、これは夢…

デイリー。

チャットGPTに食ませた文章を、マッチした相手に送る。まるで星新一が描いたディストピアみた…

Burnt butter.

よく熱したフライパンにバターを落とす。すぐにバターは輪郭を捨て、その芳香で他者に死化粧を…

インターホン。

鍵穴が変わっていた。マンションのエントランス、鍵のきっさきが触れた瞬間、この鍵が拒絶され…

Vivid.

ワインを飲むといつも眠くなる。これは紛うことなき啓示だ。宿命だ。世界はワインを通じで僕に…

唾棄。

ウイスキーに唾液を垂らすと、自分がウイスキーの一部として溶け込んだような錯覚に陥る。唾液…

パスタが有り余る。

毎日、500gのパスタを茹でている。たっぷりのお湯を十分に沸騰させて、塩をひとつまみ。ミックスペッパーを儀礼的に削り落として、円錐を象るようにパスタを投入する。時間は計らない。僕はパスタと会話をする。パスタ1本1本の要望を聞いてはいられないから、無作為な10本のパスタの意見を参考にする。聖徳太子みたいに全員の意見が聞ければどんなに良いかとは思うけど、例え聖徳太子であっても約1000本のパスタの意見全てを聞くことはできないだろうから、裁判員制度的な抽出が妥協点だ。 頃合を見て