煙草。
猫が煙草を吸っていた。
「珍しい猫だね」
僕は火柱が落ちる轍に注意を払いながら、その首元を撫でて言った。煙草を吸う猫の毛は冬仕様で、とてもふわふわとしていた。
「猫だって、煙草も吸うさ」
それが猫から発せられた言葉というのを、不思議とすぐに受け入れることができた。煙草を吸う仕草が様になっていたからかもしれない。
「でも、大方の猫は吸い方も分からないよ」
「それは、他の猫がおぼこなだけさ」
驚くことに、猫はふかす訳でも無くしっかりと煙草を喫んでいた。僕よりもずっと愉しんでいて、憧れさえしてしまう。
「君なら、葉巻だって似合いそうだね」
煙草を吸う猫はやれやれというように首を振り、僕の膝の上へ飛び乗った。
「葉巻は、俺には大仰だよ」
丸くなった猫を撫でていると、夜は明けてしまった。