不眠の神様。
「お前は俺に、愛されてしまったのさ」
彼は自らを不眠の神様と名乗った。
「でも、これは夢ですよね」
頭はすんと冴えている。
「いいや、夢じゃない。目を開いてごらん」
遮光カーテンが再現する暗闇。ぼんやりと天井が知覚できるが、呼吸のできる深海に放り投げられたような感覚の方が強い。
「お前はもう、満足に眠ることは出来ないな」
重力が遅れてやってきたみたいに、脳みそがぎしぎしと重くなる。このしこりを取り除く作業が眠りだとしたら、僕はちょっとした煉獄に閉じ込められることになる。
「……眠りの神様に嫌われたから?」
「いいや、ただ俺に愛されたんだ」
身体は動かない。でも、息苦しさは感じない。心地いい金縛りの中、不眠の神様は僕を吟味していた。嗜むように、辱めるように。
「泥のように、起きればいいさ」
彼に愛される頭痛と引き換えに、僕は酒の艶やかさを知った。