協奏。
ヴィヴァルディは胎教に良いらしい。雑誌に寄稿された小説だったか、バラエティの切れ端か、ソースはすっかり忘れてしまったが、僕はその一つの教訓がわりに気に入っていた。ヴィヴァルディは、胎教に、良い。無意識に口笛でその旋律を準えているのも、そう珍しくはなかった。
「何の曲?」
ありふれた生活の中の、特別な一時だ。
「……ヴィヴァルディ」
「何、それ?」
「昔の作曲家だよ。クラシックの」
彼女は数寄者を見るように僕を眺めてから、日曜日の午後みたいな皺を目尻に寄せた。
「前から好きだった」
日常は大聖堂でないけれども、そこはかとない喜びがあるから好きだ。
「じゃあ、こっちは?」
こういう時間を総じて、胎教に良いと言ったのだろうか。そうであってもそうでなくても、口笛で重ねる旋律の良さは何物にも代えがたい。