湯あたり。
湯あたりで悪夢にうなされていた。
過呼吸で目が覚め、心臓の致死的な鼓動で金縛りを破る。額にはじんわりと脂汗が滲み、耳鳴りが思考の轍を蹂躙する。悪夢の形は、殺人とか命に迫る緊迫した状況ではなくて、選択肢を奪われ、訳の分からない原映像を脳味噌に嘔吐されるような感覚だ。まるで、敬虔な宗教の禁忌を犯した上で、救いのない後悔が押し寄せられるみたいに。偶像崇拝を破った上で、いかなる快感にも繋がらないのなら、それは地獄と等しい。そのような地獄をもたらしたのが、湯あたりであるという状況がやるせない。
水を飲みに行きたいが、金縛りを解くことに力を使い果たしてしまった。僕は深呼吸を試みるが、相応の効果は得られなかった。また瞼を閉じれば、また緊縛がやってくる。肌に染みついた硫黄がほの臭く、関節がびりびりと痛んだ。
僕は痺れる尻と脚を引き摺って、空港へ向かった。良薬は口に苦しと言うが、湯あたりは少々苦労が勝る。