ワニ男。
「時々、本当に自分がワニなんじゃないかって思うことがあります」
ワニ頭の男は、まるで凪を見極める漁師のように落ち着いた様子で答えた。
「もちろん、始めは意匠に過ぎませんでした。しかし、儀式の後はそれが受肉をしたような……」
ワニ頭の男の首元に視線は奪われる。精緻なワニ頭は、首元でしっかりと皮膚に結び付けられている。細工仕掛けの口は言葉と連動してふがふがと動くが、僕は縫い目の微かな振動と、そこから盛れ出している空気に意識が取られていた。
「……るんです。おかしいと思いますか?」
「失礼?」
「……あなたを一思いに食べてしまえるような気がするんです」
ワニ頭の男の口角は上がらないから、冗談は死んだように冷たい。
「ワニ男になれば、それが叶うだろう」
ワニ頭の男はそのつぶらな瞳で、僕の視線を窺う。
「しかし……それじゃあ本当のワニじゃないですか」
「ワニ男は、どこまでいってもワニ男だよ。堕天使が、悪魔と呼んでもらえないのと同じようにね」
ワニアタの男は、頷くように小さく首を振った。