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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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2024年5月の記事一覧

発狂シャンディガフ。

君の酒癖は芸術的に悪かった。 「אל תהיה טיפש!」(ふざけるな!) それがヘブラ…

三人称の夢。

「つまりね、どちらが本当の悪夢なのか、僕にはわからないんだよ」 友人のその言葉だけが、や…

喧噪。

目を覚まし、反射的に確認した腕時計は午前3時を指していた。おかしい。道路工事のドリルの音…

騒音。

管理会社から連絡が来る度に、僕は自分の行動に自信が持てなくなった。 「騒いだり、奇声を上…

ナイトメアライク。

金縛りは気持ちが良い。意識ははっきりとしているのに、身体が動かない。鼓動が高まり、焦燥感…

後ろ歩きくん。

彼は常に後ろ歩きで移動するから、後ろ歩きくんと呼ばれていた。 「後ろ歩きくん、今日も良い…

スイーツピープル。

彼は呪われたパティシエみたいに、一心不乱にお菓子を作る日があった。 「こんなに、食べきれないよ」 「一口ずつでいいから、口に含んであげてほしい」 テ-ブルに所狭しと敷き詰められたお菓子は、一口ずつでもそれなりの量になった。しかし、その味は格別だった。お気に入りのお菓子は(今日はベリーとイチジクのタルト)、結局全部食べきってしまった。 「そんなに食べて、大丈夫なの?」 彼は残りのお菓子を一思いに貪った。むせかえりながら、何かを償うみたいに咀嚼し続けた。 「時々こうし

哀しき脱皮。

憧れは孤独だった。あらゆる組織から一歩引いた立場で、行き先の決まっていない渡り鳥のように…

パーフェクトガム。

彼はいつもくちゃくちゃと、まるでその咀嚼音を周囲に誇示するみたいに、ガムを噛んでいた。 …

戸村井。

架空の人物の弔辞を考えることが、戸村井の唯一の趣味だった。戸村井はこれまで、14,669人の弔…

訃報。

彼はいつも喪服を着て出勤をしてきた。 「どちらが先だったかは、もう分からないや」 彼の薄…

忌避。

虫の知らせはなかった。電話はいつも通りの音で、それが訃報である可能性すら疑わなかった。鼻…

幻想。

夜に舞う蝶を見て、僕は君と記憶とを一緒くたにする。肉体は確かにそこに存在する。ただそれは…

楡。

ハルニレが抱いた初めての感情は、温かみだった。 懇々と注がれた愛情は、ハルニレに感情の萌芽をもたらした。ハルニレはその温かみに触れ、感情を抱く快感に惑溺をした。快感に溺れるうちに、それは意思になった。もっと、もっと、もっと……。ハルニレの強い意思は成長を加速させ、みるみる巨木へとその幹を太らせた。 しかし、家族はその変貌を訝しがった。日光を大きな葉が遮り、隆起した根は庭の芝生を駆逐していた。家族は伐採を決めた。その頃、言葉を理解していたハルニレは、恐怖に戦いた。切られてし