幻想。
夜に舞う蝶を見て、僕は君と記憶とを一緒くたにする。肉体は確かにそこに存在する。ただそれは単なる重さでしかなくて、実存をしているとは言いきれない揺らぎがある。その重さは根を張り、地球を吸い尽くす機能だ。君はすでに失われて、もうどこにもいないのかもしれない。あるいはその鱗粉で化粧をして、慈しむ必要があるのかもしれない。
その裸はアプリオリにあるはずなのに、僕はその年輪を辿ることができない。ただ快感を享受し、惑溺をすることしかできない。靄の中で離した手は、もう握り直すことができない。ニゲラの説話はメタファーであり、現実には起こりえない。僕はもう君を幻想的に語ることしかできない。
僕もまた同じだ。君の記憶から組成される虚像と、たった今を生きる僕には避けがたい乖離がある。君が仮に望んだとしても、僕はそれを差し出すことができない。僕もまたはらはらと飛んでいくのだ。蜜をもとめて流浪してしまうのだ。
靄は深く、ひんやりとしている。冷たさは体温を奪い、蝶が一匹、また一匹と息絶えてゆく。その順番は確かに巡ってくる。でも、どうすることもできない。物語はすでに終わっていて、再び始めることはもうできないのだ。