忌避。
虫の知らせはなかった。電話はいつも通りの音で、それが訃報である可能性すら疑わなかった。鼻をすする母の声を聞いても、そっちは花粉が酷いんだなあと、よもやまに考えていた。祖父が死んだことを聞いて、途端にやるせなくなった。時間の不可逆な暴力を、その痛みを僕はまた思い出してしまった。
時間ほど憎まれている存在は他にないだろう。数多の資産家が、草の根の一人一人が、正面から戦争を仕掛けことごとく惨敗をしてきた。勝利した者はいまだかつていない。時間は孤独な悪魔だ。ジョーカーを求める厭世な社会でも、時間は罵倒され呪われ続ける。しかし、時間は止まることも戻ることもできない。急ぐことも、休むこともできない。
僕は時間を愛そうと思ったけれど、できなかった。祖父は死に、僕は老いる。僕がいなくなった後も、地球は当たり前のように回り続けて、やがて太陽に飲み込まれる。あの太陽が爆発しても、宇宙には虫刺され程度の影響しかなくて、宇宙は膨張をやめない。孤独だ。すでに感情を忘れてしまった。じゃあこの自走機能は、いったい何の為に? 祖父の美しくも儚い人生は、一体何の為に?
時間。考える時間がある。でもそれは永遠じゃない。だから僕は、時間を好きになれない。