三人称の夢。
「つまりね、どちらが本当の悪夢なのか、僕にはわからないんだよ」
友人のその言葉だけが、やけに印象に残っていた。
三人称の夢が、昔から嫌いだった。どんなにくだらない夢でも一人称であればそれなりに楽しめる。それが明晰夢であっても、折角の夢だからと割り切ることができた。しかし、三人称は地獄だった。僕は音声を切られたマイクに向かって文句を垂れ流すナレーターだった。どんなに素晴らしい映像が流れていても、それを追体験することができなければ夢である理由がない。一人称の可能性を見せびらかす点、映画よりよっぽど悪質だ。
昨夜は酷かった。僕の理想を欲しいままにする主人公は見知らぬ人だったし、ヒロインも知らない人だった。登場人物の端役以外は全て見知らぬ人がプレイングをしていた。はっきり言って地獄だった。知らない人の幸福を見せびらかされるくらい、酷い物ってほかにない。
見知らぬ人たちに、僕の人生が取って代わられる。僕は目が覚めてから、その可能性についてずっと考えていた。