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僕の一部は妖怪で、そいつが時々悪さをする。 妖怪はいつも突然現われる。擬態が上手いやつだ…
上の階には妖怪が住んでいる。妖怪のねちゃりねちゃりとした足音が私の鼓膜を揺らす度に、私の…
白いレモンを切る夢を見た。 「このレモンは……真っ白ですね」 その日はレモン記念日で、厨…
椿の花が、目の前でぽとりと落ちた。風が吹いている訳でもなく、誰かが触れた訳でもなかった。…
溶かした時間は、アイスクリームの甘さになる。 「気が遠くなるほど長い歴史の中で、最もマシ…
深く吸いすぎた煙草に、脊椎は指令をだした。雪に落ちた煙草の、何かの叫びに似た火柱に消える…
洗面台の前、いつものように整髪剤を付けていると一本の長い髪の毛を見つけた。他の髪の毛の倍以上の長さで、肩にまでかかっていた。僕は首を傾げながら(何せ僕は、毎月決まった日に床屋へ行く生活を長いこと続けていた)、その長い毛を摘まんだ。チクリとした感触が走り、それが髪の毛に付帯した痛覚であることに気付くのには時間がかかった。まるで一本の神経が飛び出してきてしまったように、その髪の毛は痛覚を携えていた。 一本の長い髪の毛は、尻まで伸びていた。風が吹けば腰が抜けるほどこそばゆいし、早
ガールフレンドが懐妊をした。しかし、僕達は長い所セックスレスだった。 「宇宙人の子供なの…
彼女の脳味噌はアムペになった。アムペは彼女を司り、彼女を淫乱に仕立て上げた。アムペは満足…
「あまり、酔っ払わないんだね」 昨夜に受けた一言がやけに頭にこびりついている。じゃあ、何…
部屋が片付いていくにつれ、僕の心は荒んでいった。それはあらゆる皮肉に勝る皮肉だった。僕は…
酩酊による気絶に似た意識の断絶の後、頭がみょうにすんとして目が覚めることがある。人生がリ…
琥珀の身体には、血液の代わりにウイスキーが流れている。ウイスキーを口腔摂取することで、琥…
先生の部屋は酒の空き瓶だらけで、足を踏む隙間がほとんどなかった。家具も家電もない部屋に、生活感はドーナッツの穴みたいに抜け落ちていた。瓶の一本一本には気味が悪いほどに埃一つなくて、醸し出される死の翳りが冷たく私の頬を撫でた。 「……先生」 私のささやかな人生には、この部屋を形象する言葉は存在しなかった。 「瓶の上で寝ているんだ。とても、器用に」 先生の自嘲気味な笑いと、生徒として羨望の眼差しを向けていた偶像が、胡乱に混ざり合って私の脳を陵辱した。 「あの時も?」