瓶床。
先生の部屋は酒の空き瓶だらけで、足を踏む隙間がほとんどなかった。家具も家電もない部屋に、生活感はドーナッツの穴みたいに抜け落ちていた。瓶の一本一本には気味が悪いほどに埃一つなくて、醸し出される死の翳りが冷たく私の頬を撫でた。
「……先生」
私のささやかな人生には、この部屋を形象する言葉は存在しなかった。
「瓶の上で寝ているんだ。とても、器用に」
先生の自嘲気味な笑いと、生徒として羨望の眼差しを向けていた偶像が、胡乱に混ざり合って私の脳を陵辱した。
「あの時も?」
「あの時?」
「先生が、私の進路相談に乗ってくれた時」
「うん……そうだね」
私はお酒に溺れる人を何人か知っているけれども、少なくとも先生がそれに陥るとは思いも寄らなかった。先生はそのような影を私たちの前で見せたことがなかったから……今思えば、それが表象なのかもしれないけれど。