妖怪。
僕の一部は妖怪で、そいつが時々悪さをする。
妖怪はいつも突然現われる。擬態が上手いやつだから、一部が妖怪に移り変わっても到底気付けない。肝臓に擬態して酒を盗み飲みすることもあれば(おかげで酔えなくて酒代がかさむ月がある)、鼓膜に擬態してあることないことを人に言わせたりする(怪我の功名じゃないけど、僕は人に対して全く怒りが沸かなくなった)。心臓にだけは擬態をしないが(その時は妖怪もろとも死ぬ時だ)、大抵の悪さは経験した。僕はそれに辟易をしつつも、愛情に似た妙な心持ちを感じる時もある。(わりに憎めない奴なのだ)
「多分、妖怪の仕業なんです」
「はあ」
「悪いとは思うんですが……僕にはどうも干渉が出来なくて」
「はあ……しかし、夜中ですので……」
「分かりました。言っても無駄でしょうけど、一応注意しておきます」
「はい……お願いします」
まったく、今度は目玉に擬態しやがった。こんな夜中に、警官が尋ねてくる訳がないのに。