妖怪。
上の階には妖怪が住んでいる。妖怪のねちゃりねちゃりとした足音が私の鼓膜を揺らす度に、私の皮膚は痒みを及ぼして平静でいられなくなる。私は眠りに逃げようとするが、妖怪は見逃してくれはしない。喧騒を与え、天井の先でタップダンスを踊る。私はとてもいたたまれなくなって、枕を天井に投げつける。その箇所は眼になって、乱れる私を舐め回すように見る……。
「お巡りさん、上の階に妖怪がいるんです」
「はあ」
「妖怪が騒いで、ねむれないんです」
「はあ」
「妖怪が騒いで、ねむれないんです」
「……では、注意に伺いますね。X05の、上の階で間違いありませんか?」
警官はとても勇敢だな、と私は思った。あの恐ろしい妖怪がいる部屋に、私はゆめゆめ行けやしない。