白いレモン。
白いレモンを切る夢を見た。
「このレモンは……真っ白ですね」
その日はレモン記念日で、厨房に残るレモンはもうそれしかなかった。
「買い出しに行きますか?」
「いや、どこも今日は空いていないよ」
親愛なるレモンを記念するその日は、八百屋などレモンを売る店は押し並べて休みだった。
「白いレモンは、クレーム対象になるのかな?」
「どうでしょう」
「君が客で、真っ白なレモンが出てきたらどうする?」
「〝これってレモン?〟と聞きます」
「〝はい。これは紛うことなきレモンです〟と答えられたら?」
「舐めてみて、レモンの味がしたら店員を帰します」
「つまり、レモンをレモンたらしめるのはあの味なんだね」
「ええ、あるいは」
「なるほど」
上司はほんの少しだけ考えて、僕に提案した。
「一度、舐めてごらんよ」
「しかし、これは神様に提供する商品です」
「特例、勅令だ。ひと舐めして、確認せよ」
僕はおそるおそる舌を伸ばして、白いレモンが待つ皿へ近づけたー
白いレモンは、はたして本当にレモンだったんだろうか?僕は目覚めてからしばらくたっても、口の中が唾液でいっぱいだった。