ネガティブ・ケイパビリティ|欲望というコナトゥスに向き合うある日の午後
皆様、如何お過ごしでしょうか?
2022年も3月に入りましたが、皆様、如何お過ごしでしょうか?
今週から気温も高くなり春の息吹を感じられる瞬間もございますが、
皆様はどの様な書籍をお手に取っておりますでしょうか?
私は相変わらず、抽象度も高く・・・直ぐに答えの出ない問いに向き合い
ながら、書籍を読み耽っております。
そして・・・気づけば3月という状況です。
先日、stand.fmで「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」という書籍をベースに「無感覚の感覚とは?」というタイトルの配信を致しました。奇妙な言い回しですが、何か私のクオリアを刺激された様な感覚でございます。
日々、様々な領域の書籍を手に取りますと、「生きるとは?」「愛するとは?」「働くとは?」・・・という問いに直面しますが、そこには何も
「無い」という感覚だけが残ります。
──── 「とは派」と「では派」とは?
「とは派」と「では派」のお話は以前にstand.fmでも配信しましたが、問の立て方が「とは?」と「では?」ではどちらが自分に対して深く杭を打ち込めているのか?
例えば・・・ロシアとは?と考えてみることと、ロシアでは?と考えることはその問いの深さが違うように感じます。
ただ、生きるとは?死ぬとは?働くとは?と考えた所で少なくとも書籍には明確な答えなどは書いておらず、自分の今置かれている状況や文脈に於いて意味の復権や自己領土の回復を行わなければならず、つまり自分の力への意志で選択をすることになるのだと思います。
「とは?」と問いを立てることは日々のビジネスや人間関係の中でもとても役立っている思考法ですが・・・抽象度が高く成るにつれて・・・
生きるとは・・・○○である!
死ぬとは・・・○○である!
働くとは・・・○○である!
と言い切る事が出来ない状況に私は追い込まれて来ました。
正法眼蔵現成公案に次の様な言葉がございます。
仏道をならうというは、自己をならうなり
そして・・・続きには・・・
自己をならうというは、自己をわするるなり。
自己をわするるというは、万法に証せらるるなり。
万法に証せらるるというは、自己の身心および他己の身心をして脱落せしむるなり。
自分の張り出した自我というものを自分が透けるくらいまで、素粒子レヴェルまで見切るくらいに見定めてみることで段々と自我が薄くなるのだと思います。それは執着や欲望からの解放を意味するのだと思います。
少なくとも、普通に暮らす私としては、日常を穏やかに朗らかに暮らせる様に、読書体験を通じて自我を抜いて行こうと思います。
そんな事を考えながら3月も持続的な連続運動を行いたいと思います。
* * *
第826回【Bricolage】無感覚の感覚とは?
──── ネガティブ・ケイパビリティとは?
イギリスの詩人、ジョン・キーツが弟に宛てた手紙の中で語ったとされるのが、ネガティブ・ケイパビリティです。
その定義は・・・
「性急に証明や理由を求めずに、不確実さや不思議さ、懐疑の中にいられる能力」というものでございます。そして、大変興味深いのが、ジョン・キーツはその陰翳をウィリアム・シェイクスピアに見たというのがとても心に刺さりました。
■ウィリアム・シェイクスピア/Wikipedia参照
一方で、ポジティブ・ケイパビリティという概念も印象的です。
日常を振り返りますと、性急に答えを探したり、或いは求められたりと・・・そんな場面もビジネスの現場や日常でも多い訳ですが、少しの間の猶予も無いくらい何か切迫している瞬間を感じることもございます。
こういった時は呼吸も浅く成りがちですし、即物的に判断を下すことも多いため私自身は少し呼吸を整えてから思考を回すようにしております。
我々は性急に答えを求めたり、求められたり、科学的でない思考を排除したり、認めなかったり・・・
ポジティブ・ケイパビリティにドライブが掛かり過ぎている様にも思います。サイエン・スドリブンは確かに生産性も高く効率が良い為、作業ははかどりますが、一方で何か大切な「もの」を見落としている様にも思います。
見落とした・・・という残響と残り香を感覚器官が知覚した次の瞬間には、またサイエンス思考が回り始めて、少しの間も留まる事を許されない様な状況で日々、フィードバックループが回り続けている様に思います。
この回り続ける環を駆動するエネルギーの根源が人間の「欲望」であり、
現在の資本主義を駆動するパワーの根源の一つであろうと思います。
そして、私はいつも無限の象徴、ウロボロスの環を想起させられます。
──── ロゴスを離れた宙ぶらりんな状態とは?
宙ぶらりんな状況を如何に冷静に直視できるか?
回避せずに耐え抜くことが、人は何よりも苦手なのだと思います。
違和感や不快感を直ぐに解消したくなるのが、我々人間であり、エリック・ホッファーの言うように、我々はどうしようも無い未完成な弱い動物なのだと思います。
■エリック・ホッファー/Wikipedia参照
ご興味ございましたら、精神科医の帚木蓬生さんが書いたネガティブ・ケイパビリティをお手に取って下さればと思います。そして、エリック・ホッファーの「人間とは何か」もおすすめでございます。
* * *
──── 欲望とは?
小説家で精神科医の帚木蓬生さんは「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」以外に、「閉鎖病棟」や「逃亡」「蛍の航跡」など多数の小説を書いている著名な方です。
先日、帚木蓬生が書いた「生きる力 森田正馬の15の提言」という書籍から
11番目の章・・・「生の欲望」という章について語りました。
──── 森田療法とは?
森田療法をご存知でしょうか?
東京慈恵会医科大学の初代精神科教授・森田正馬が創始した精神療法です。
1919年あたりには、どうやらその精神療法は確立していたとも言われてございますが、神経症の治療法ということになるのだと思います。
■森田正馬/Wikipedia参照
私も「たくさんの書籍を読みたい」とか「よりよく生きたい」とはいつも思いますが、森田正馬の15の提言を読みますと「欲望」を冷静に観察しながら折り合いを付けて付き合っていくことの大切さを感じます。
「欲求」は解消出来ても、「欲望」は解脱しない限りは消せないのだと思っております。何かを欲するこの「欲望」については様々な書籍でその生暖かい手触りを感じることがございます。
例えば・・・ウィリアム・シェイクスピアに作品には、人間の愛憎を色濃く描かれており、たくさんの示唆が凝縮されております。
オセロー然り、リア王、マクベス、ヴェニスの商人然り・・・「欲望」というものをあるがまま感じ取る事が出来ます。私はいつも人間の根幹に関する感情について考える時には決まって、シェイクスピアのリア王を読み返しますが、様々な示唆を教えてくれます。
先日stand.fmで配信をしました「生の欲望」という言葉は「力強さ」と
「儚さ」を抱えた大変、魅力的な言葉でもございます。
皆様は自分の「欲望」にどの様に向き合っていらっしゃいますか?
────欲求と欲望とは?
フランスの哲学者、精神分析医、ジャック・ラカンは難解なエクリの中で次のように語っております。
欲望は、他者の欲望である。
欲望の根源は、他者の欲望である。
■ジャック・ラカン/Wikipedia参照
「欲求」と「欲望」の違いをマズローの欲求五段階説と絡めて以前にお伝えしましたが、「欲望」は何かを欲する心でもあり、「欲望」にドライブが掛かり過ぎた帰結が今の資本主義社会だといる論考も目に致します。
私の誤読で恐縮ですが、自分をポジティブにドライブさせて行こうとする、野心や目論見はジョン・メイナード・ケインズの言う、アニマルスピリットの様なこと知れませんが、決して悪いことでは無い感情だと思います。
誰しも欲望や野心は抱くものだと思いますし、エマニュエル・カントは「我々は欲望から物事を始める」とも語っております。
■アブラハム・ハロルド・マズロー/Wikipedia参照
マズローは人間の欲求を5つのレイヤーで説明をしております。
「生理的欲求」、「安全の欲求」、「社会的欲求」、「承認欲求」、「自己実現欲求」です。それぞれの欲求が積み重なって1つのピラミッドを構成しています。 最下層の「生理的欲求」から、一段づつ欲求を満たしていくことで、最終的には最高位の「自己実現」に向かっていくという理論ですが、晩年、マズローは6段階目に「自己超越」を提唱しております。
森田正馬15の提言の中にも欲望として、優秀欲、支配欲、権勢欲、食欲、色欲、金欲と仏教哲学で言う、五欲についても書いてございました。
森田療法は宗教ではなく、科学であるため、欲望を抑えないということです。欲望を抑えすぎると、抑圧状態を感じますし、外からの刺戟に対して、
ある程度、バランスを取ったり変状させていく事が何より大切であり、
スピノザは変状をコナトゥス=本質=欲望だとエチカの中で語っております。
■バールーフ・デ・スピノザ/Wikipedia参照
──── 京都の龍安寺のつくばいのお話
京都の龍安寺をご存知でしょうか?
龍安寺は、1450年に室町幕府の管領で応仁の乱の東軍総帥としても有名な
細川勝元が、藤原北家の流れでもある徳大寺家の別荘を譲り受けたことが
はじまりとされたており、外国人にも大変人気のあるお寺です。
そのつくばいには「吾唯足知」(われただたるをしる)とございます。
それは・・・石庭の石が「14個しか見ることができない」ことを「不満に思わずに満足する心を持ちなさい」という戒めの意味が込められているそうです。
自分の持っているものに着目しなさいと言われているような気がしております。隣の芝生は青く見える・・・とは言いますが、勝手にそう思っている自分を冷静に見なさいと言われている様な気が致します。
以前にnoteに禅の「看脚下」について書きましたが、自分の足元を見ることの大切さを改めて感じます。
■細川勝元/Wikipedia参照
──── 感想
今回、改めて森田正馬15の提言を読んで感じたのが欲望の葛藤をネガティブ・ケイパビリティとして抱え込んだ状態で、生への欲望にひたすら突き進めば良いと解釈を致しました。
「より良く生きたい」という生の欲望は、自分のありたい姿や、理想像への願望がないと、そもそもそういった不安も生じないだろうということでございます。
心というものは、岡潔の言葉を借りれば、ひっきょう、メロディーであり調べでもあり、そのメロディーもまた奏でたいという欲望である様に思えて参りました。
引き続き私の自主研究テーマでもある、人間とは何か?について掘って参りたいと思います。
今回は帚木蓬生さんの書籍「ネガティブ・ケイパビリティ」と「森田正馬15の提言」をベースにstand.fmでの音声配信の文字起こし+αでございました~
ここまで読んで下さり、有難うございました🌟
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──── ここからは毎度の宣伝でございます。
読書術研究家の日々の活動👇
【stand.fm 子育て×読書体験ラジオ】
→ 2020年4月5日~配信をスタートしており本日(2022/3/2時点)で849本の音声コンテンツを配信しております。23ヶ月ほど継続して参りましたが、リアルの場ではお会い出来ない方ともゆるい弱い繋がりが持てて、毎日刺激的な日々を過ごしております💡
【POTOFU】
POTOFUも活動URLをまとめました。
SNSの活動はTwitter、Instagram、Gravityも活用しております。
また音声発信はRECでも時々行っております。
読書全般にご興味ございましたら、是非、お立ち寄り下さい。
■ブリア=サヴァラン/Wikipedia参照
どんな「書籍」を読んでいるか言ってみたまえ、君がどんな人か言い当ててみせよう。
またのご来店、心よりお待ちしております。有難うございました~🌟
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