SDGsとイスラム金融
3行要約:イスラム金融とは、シャリア(イスラム教における規範や法)に基づいた金融システムである。イスラム金融は、その概念自体が倫理的ビジネスを重視した金融のあり方を説いている。そのため、SDGs(持続可能な開発)との相性が良く、持続可能な開発のための有効なファイナンス手段として近年、期待されている。
ダラム大学イスラム経済金融研究所 (Durham Centre for Islamic Economics and Finance)夏季講習2日目に、 Dr Mahmoud Mohieldin氏による (United Nations Special Envoy on Financing the 2030 Agenda, the UN, New York, USA) "The SDGs, Finance, and Crises: Lessons Unlearned" (SDGs、ファイナンス、危機:「未学習の教訓」)をテーマにした講義を拝聴した。
以下、講義の中で特に強調された (1) イスラム金融と発展途上国における開発支援、(2) イスラム金融と自然の持続可能性、(3)「金銭的インセンティブ」と「倫理的インセンティブ」重視の金融のあり方の三点について学びを共有していきたい。
イスラム金融の概要に関しては以下の記事を参照していただきたい
イスラム金融と発展途上国における開発支援 (Islamic Finance and the Financing for the Development)
The finical crisis "revels" and "accelerates" the matter of the time (一般的に「金融危機」はその時代の問題を浮かび上がらせ、問題解決への取り組みを加速させると言われている)
日本において、今回のCOVID-19により、オフィスワークからリモートワークへ、紙ベースからデジタルベースの書類へとこれまで燻っていたデジタル化への課題が一気に加速し解決されようとしている。この様に、今回に限らず、1997年アジア金融危機、2008年の金融危機後の社会経済的変革にみられるよう、社会的、経済的危機は、一般的に、私たちに "The New Normal" を促すとされている。
しかしその一方で、COVID-19 が発展途上国のファイナンスに大きなストレスを与えたのも事実である。
例えば、COVID-19により、今年度、海外労働者による自国(発展途上国)への送金は、20%減少、FDI(海外直接投資)は30%低下するとされている。実際に 日本いおいてもベトナム等からの移民がCOVID-19をきっかけに失職したという話が話題になっている。
また、多くの発展途上国においては、もともと国家リスクが高かったが、COVID-19をきっかけに、投資家が比較的安全な金融資産へと逃げることで、さらにSovereign Borrowing Costs (国家借り入れコスト) が増加し、Debt Trappingと呼ばれる国債借金地獄への懸念が高まっている。
そんな中で、イスラム金融は債券ベースではなく、株式ベースのリスクシェアリングアプローチであり、With コロナのこの時代、既存の金融システムの代替になり得ると一部では期待されている。
さらに、イスラム金融は、発展途上国における金融サービスを受けづらい層へのアクセス、金融包摂(Finacial Inclusion)、としての側面もありCOVID-19により、より影響を受ける所得水準の低い層への支援も担い得る。
イスラム金融と自然の持続可能性 (Islamic Finance and The Financing for Greening)
イスラム金融は、そもそもの概念として社会的インパクトを重要視する金融概念である。言い換えるならば、イスラム金融において、金融取引を行う際、個人的な金銭的インセンティブだけでなく、その取引の社会的意義や役割も考慮する必要がある。よって、根本的な概念が既に社会や自然に配慮した開発を促す持続可能な開発目標(SDGs)等の考えとうまく調和する。
例えば、グリーン投資の源としてのイスラム金融市場が良い例である。
持続可能なエネルギー投資プロジェクトへの資金調達の主要な手段としてへのGreen Sukuk(再生可能エネルギーやその他の環境資産へのShari’ah準拠の投資)の発行、取引等が近年活発的に行われつつある。
グリーンスクーク市場の拡大は、環境にやさしいプロジェクトを促進しつつ、イスラム金融がその道徳的目標を達成することも手助けする。
また、シャリア(イスラム教の規範や慣例)に基づいたSDGsを考慮した株価指数連動債(Equity-linked Bonds (notes))の発行も話題になっている。
具体的には、既存の予想利益と費用コストに基づくの計算に基づく投資判断ではなく、
・ステップ1:シャリアの基準に基づく企業の除外(例:タバコ会社またはアルコール会社の除外)
・ステップ2:SDGSに貢献する企業の選択
・ステップ3:予想利益と費用コストに基づく企業の選択(従来の金融サービスの場合、このステップのみ)
を経て投資判断がなされる。つまり、持続可能な利益とビジネス利益に基づくの両方を考慮し、より社会的に価値のある事業や会社へのファイナンスを促す仕組みになっている。
「金銭的インセンティブ」と「倫理的インセンティブ」重視の金融のあり方へ(Finance is the "enabler" to change our initiative mechanism toward sustainable society)
私たちは持続可能な社会へと変容していく必要がある。その根底にある問いは、
「一体誰が「金銭的インセンティブ」から「倫理的インセンティブ」重視の経済判断に変えるのか」であると思う。それは生産活動を担う企業なのか 消費活動を担う 金融サービスを提供する金融仲介業者(銀行等)なのか。
SDG (各国家に対するゴール)、ESG(企業側に沿ったゴール) 、世界銀行による「持続可能な開発のためのグローバル投資家(GISD)」等様々な枠組みが設計されつつある。しかし、根本的に私たちがインセンティブ構造を変えない限り、生産や消費をより持続可能性にすることは困難であると思う。
そんな中で、国際機関のレポートで「持続可能な開発のイネーブラー(Enabler)」とよく呼ばれる Financing (金融)は、少なくともそのインセンティブ構造を変える一翼を担うべきだと個人的には思う。具体的には、金融商品やサービス、投資判断の為の企業や事業の評価において、より積極的に「社会的意義」「社会的利益」を考慮した金融の仕組みへと変革していく必要があると思う。
イスラム金融は、その根底にある社会的責任を重視する概念から、SDGs関連のファイナンスとの相性が良い気がする。よって、新たな「社会的意義」や「持続可能な開発」を踏えた金融のあり方としてイスラム金融が、今後より一層期待されると考えられる。少なくとも、イスラム金融は、従来の金融のあり方とは異なる金融の意義や概念を私たちに提示していることは間違いない。
*私はイスラム金融の初心者であり、以上の内容に関して一切学術的な内容ではない旨、承知して頂きたい。あくまでも、イスラム金融に興味を持つきっかけになれば幸いである。
次回は イスラム金融の流動性について