お江戸まで、ちょっとお宝探しに~日本民藝館×前田家洋館篇
旅も、ようやく2日めに。
夏日だった前日とはうってかわって、少し肌寒いくらいの朝でした。
hinaさんとローローさんと会う約束に胸が高鳴り、少し早めにホテルをチェックアウト。東京駅に向かいました。
コインロッカーに荷物を預けて、優雅にカフェでモーニングでもいただくつもりでいたのですが。な、な、なんとまさかのデジタル難民に!
東京駅のコインロッカーが、どこもかしこも電子マネー決済だったのです。もちろんクレジットカードは常備していました。しか~しです。スライドや差し込みでのカードリーダー機があるのに、タッチ決済でしか受け付けてくれないんです。そして……私のクレジットはタッチ決済タイプではなかったようで、何度トライしてもNGでした。交通系ICカードも、神戸ローカルのPitapaなのでNG。PayPayは……最後に使ったのはいつ?というぐらいの放置状態で残高125円のトホホ。そもそも、マイナンバーポイントの受け皿として登録しただけだったので、チャージもコンビニ以外のどこでできるのかもわからず。八重洲北口近辺を見回しても土産物店と飲食店はあれど、コンビニが見当たりません。重い荷物を肩に、冷や汗をかきながら右往左往するばかり。結局、Suicaを購入すればいいことに気づき(もっと早く気づけよ)、なんとか荷物を預けることができました。
ふだんクレジットは普通に使っているし、電車はPitapaで乗っているし、スーパーでの買い物はコープのチャージカード(これもローカル)を使ってるしで、現金一辺倒でないと思っていたのですが。日本の首都では通用しませんでした。ぼおっとしていると、時代からどんどん取り残されていくのだと痛感。せめてPayPayにいくらかチャージしておこうと反省です。
では、気を取り直して。
hinaさんは、器や歳時記、和菓子など日本文化について、すてきな写真とともに記事を綴られています。昨秋にも銀座でお会いして、楽しいひとときをご一緒していただきました。
hinaさんは、折にふれて日本民藝館を訪問されています。それがとても羨ましくて。次に上京する機会があれば、ぜひとも日本民藝館に行こう!と心に誓っていました。そこで、今回、わがままを言って、hinaさんに日本民藝館を案内していただくことになったのです。
ローローさんは、エジプトやチェコでの滞在が長く、その折の体験に独自の視点から丁寧に取材、調査されたことを興味深い記事にされています。生半可な調査ではありません。広島原爆ドームの設計者がチェコの建築家であり、ドームのアイデアのルーツはエジプトのスエズ運河社オフィスにあることを突き止められるなど。レベルの高い論文といっても良い内容で、しかもエッセイとしても上質。
ローローさんとお会いすることも、今回の旅の願いのひとつでした。
19日にみらいさんと一緒に会う約束をしていたのですが、ローローさんの都合がつかなくなり残念に思っていました。20日にhinaさんと日本民藝館を訪ねるとお伝えすると、「民藝館の近くに住んでいるので少し会えませんか」とのうれしいお申し出をいただいたのです。
hinaさんと新宿で待ち合わせ、いざ小田急線東北沢駅へ。
ローローさんが小型犬用のバギーを押して、颯爽といらっしゃいました。
ローローさんは保護犬活動にも熱心で、数週間前に香川までいらして、虐待にあっていた犬を引き取られてきたところでした。私は詳しくないので確かな犬種はわからないのですが、たぶんパピヨンでしょうか。黒くて大きな耳がぴんと立ち、マズルが凛として、賢そうなかわいい子でした。でも、まだ、脚やボディは痩せていて……。庭につながれ放置状態だったそうです。ペットとして飼うのなら最期まで命を引き受ける覚悟をもって世話してあげられないのかと、人間の不遜さを思わずにはいられません。先日、読んだ本でゴールデンリトリバーは自然の摂理に反して、異種交配を続け、人間につごうの良いように改良された犬だと知りました。牧羊犬や救助犬は、その犬種の本能を利用して使命を与える。けれども、ゴールデンリトリバーは人間のためだけに生きることを宿命づけられ生み出されたのだと。呆然としました。人は命に対する冒涜を繰り返してきたのかと戦慄すら覚えました。
ローローさんが保護犬・保護猫の活動に取り組んでいらっしゃることを尊敬します。
犬も入れるカフェがあるからと、そこでハーブティーを。
ローローさんは、本当に話題が豊富で話がつきず、時の経つのを忘れるほどでした。テリー(保護犬)はおりこうさんで、吠えることもなく、お行儀よくバギーから私たちの話に耳を傾けていて。ローローさんに保護されて良かったね、と思わずにはいられませんでした。1時間ほどカフェで過ごし、ローローさんに近所の方だけが知る抜け道から日本民藝館までご案内いただきました。お忙しい中、お時間をさいていただき、ローローさん、本当にありがとうございました。次は、ゆっくりとエジプトやチェコのあれこれについて、お話をお伺いしたいです。
そして、いよいよ憧れだった日本民藝館へ。
ここで朗報です。
前々回の記事で書いたように、私は写真を撮るのが苦手。20日もほぼ写真を撮らなかったのですが。なんとhinaさんが撮影された写真を使ってもよいと快いお申し出をいただいたのです。hinaさんの写真は、風景や対象物の切り取り方、木漏れ日や影の活かしかたがすばらしい。そんなhinaさんの写真を使わせていただけるだけで、私の稚拙な記事もすてきにみえることまちがいなしです。hinaさんありがとうございます。
さて、私と民藝の出会いですが。
百貨店の宣伝課でコピーライターをしていた20代の頃にさかのぼります。
外商のお客様向けの美術品の展示即売会が年に一度ありました。そのパンフレットの作成で、濱田庄司や河井寛次郎の作品と出会いました。白洲正子氏の著書から、柳宗悦や「民藝」という芸術運動があることは知っていました。ただし、言葉としての知識だけ。展示会で「いいなあ」と眺める程度で、それ以上に深く知ろうとはしませんでした。
hinaさんの記事で、焼物に対する興味が再燃していた折のこと。
ちょうど三年前の秋でした。
原田マハ氏の『リーチ先生』を読み終え、舞台になっていた小鹿田焼に強く惹かれ、昂奮冷めやらないままhinaさんにメールを差しあげました。すると、hinaさんから「小鹿田焼の里を訪ねて、たった今、羽田空港に戻ってきたところです」とのお返事が。あまりの偶然に身震いしました。
『北斎の娘』でもそうでしたが、小説に導かれる縁ってあるのですね。
そのときから、日本民藝館は一度は訪れたい憧れの館になりました。
私には、hinaさんのような民藝に対する深い素養はありません。職人の技に敬意を払い「用の美」を見出した民藝の作家たち。きらびやかさとは一線を画した体感温度の感じられる作品にただ心を惹かれるだけです。
今回の特別展の芹沢銈介は、「型絵染」という技法を創始し人間国宝になった染色家です。「型絵染」は、沖縄の伝統工芸である紅型をよりデザイン的にし、江戸小紋なども彷彿とさせてくれます。
さて、ここからはhinaさんの写真で芹沢銈介の作品をお楽しみください。
日本民藝館のショップで迷いに迷って手に入れたお宝がこちら。
『民藝』のバックナンバー。右が棟方志功の特集号。左が宮沢賢治の作品の切り絵作品を描いた柚木沙弥郎の特集です。
日本民藝館をたっぷりと堪能したあと、私とhinaさんは東大駒場キャンパス内にあるフレンチレストラン『ルヴェソンヴェール』に。
ローローさんからご紹介いただいたレストランです。
緑深いキャンパスの片隅に洋館があり、まるで森のレストランという感じでした。
ランチはアペリティフ、メイン、デザート、ドリンクの構成。
盛り付けも美しく、おいしくいただきました。
ランチの後は、ローローさんからお薦めいただいていた前田家屋敷に。
駒場公園内にありました。
洋館と和館と2つの屋敷があったのですが、帰りの新幹線の時刻もあって、洋館だけを楽しみました。
もう圧巻でした。神戸にも異人館はありますが、なんというか広さや格の違いを見せつけられた感じがしました。ホールはもちろん、各部屋がとにかくゆったりとして広く、シャンデリアや柱の彫りも息をのむ美しさでした。
これを無料で公開しているんですよ。前田家と目黒区の太っ腹に感謝です。
では、皆さまもhinaさんの写真でご堪能ください。
ローローさんによると、戦後、GHQに接収されていた時期に、この美しい壁紙がぜんぶ剥がされたそうです。それを前田家の奥様が嘆かれていて、この度、元通りの復元がかなったのだとか。再び美しくよみがえった室内を拝見し、ため息がもれました。
前田家屋敷を後にして、東京駅に。
和館はまた次の機会にとっておきます。
たくさんの素敵な思い出と、お宝をゲットしてほくほくで新幹線に。
たった2日のお江戸珍道中に4話も費やしてしまいました。
この2日間でお世話になった、みらいさん、ぼんらじさん、いぬいさん、geekさん、ramさん、志麻さん、hinaさん、ローローさん、皆さんほんとうにありがとございました。心よりお礼申し上げます。
というところで、このあたりでお開きに。
またの機会に、お目にかかれると幸甚に存じます。