誰鏡 照

うつ病歴20年。病魔と闘いながら詩を紡いでいます。同じく心を病んでしまった人の支えになれることを夢見て。 誰鏡照という名は、ダレカガミテル、誰かが見ていてくれてるよ、という希望からつけたものです。 あなたは一人じゃないよ、それだけを伝えたくて、今日も拙い詩を書きます。

誰鏡 照

うつ病歴20年。病魔と闘いながら詩を紡いでいます。同じく心を病んでしまった人の支えになれることを夢見て。 誰鏡照という名は、ダレカガミテル、誰かが見ていてくれてるよ、という希望からつけたものです。 あなたは一人じゃないよ、それだけを伝えたくて、今日も拙い詩を書きます。

最近の記事

「腐女子向け」夏目友人帳「的夏」

「まるで女性のようになめらかな肌ですね。 このか細い腕でどんな妖でも従えてしまうのだから、 君は可愛いんだか恐ろしいんだか。」 「ま、的場さん、お、俺や、やっぱり⋯。」 「怖いですか?私という人間が?それともこれからする行為が?」 答えはどっちも、だった。 ついこの前までは。 ほんの数カ月前までは。 ニャンコ先生に何も告げないまま、 受け取った招待状に吸い寄せられるかのように 的場の屋敷へと足を運んでしまった自分の 浅はかさと無防備さは重々理解している はずなのに、どうして

    • 触れたくて、ただ。

      ただ、あなたに触れてほしいのです きつくきつく抱き締められながら 望むのは愛してるの言葉だけじゃ足りない 恋に落ちると相手の心のみでなく 体も欲しいと思うのは男だけじゃなく女も同じなのですよ あなたは酔ったときにだけ 1本頂戴と言って私の煙草を吹かします その横顔に欲情を覚えるなんて 私はいやらしい女でしょうか だってそのあとに交わすキスは あなたと私、同じ味がするんですもの そんなご馳走をちらつかせて 自覚もなしに私を焦らすあなたはとっても意地悪で 少年のように清らかです

      • 7つの人格

        最大で7つの人格を宿していたこともある とてもじゃないけれど手に負えたものではなかった 主人格なんて名ばかりだ 彼らを管理するなど不可能だった 支配下に置かれていたのはむしろ私のほうだったのだから 彼らは好き勝手に現れては気の済むまで私の肉体と精神を乗っ取り その間の記憶は私には残らない ひたすらに、ただひたすらに恐ろしかった 幼少期からの父による性的虐待に対抗するために生まれた 彼女の凶暴性と残虐性と言ったら、背筋が凍るほどだった 何度、彼女に殺されかけたか、分かりはしない

        • その過剰なる優しさについて

          もしも神さまが、免罪符という金属で出来たナイフを 君に手渡して、 この世界中の誰でもいいから一人殺してもよいと言われたら 君は迷うことなく、自分自身の首を搔っ切るんだろうね 君はそういう人だから 私はただの小心者 誰かに喧嘩を売ったりする度胸も勇気もないだけよ うつむいて唇を噛みしめながら いつだったか君は僕にそう告げた でもね、それは間違いだよ 君は誰よりも優しいだけなんだ 誰よりも苦痛を味わい続け、人の痛みが分かるからこそ 人を攻撃したりできないだけなんだよ 全部自分のせ

          わたがし

          女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろう 君は風が吹けば飛ばされてしまいそうにか細いし おっぱいだって小さいのに 抱きしめるとほら、綿菓子みたいに甘くてあったかいんだ 貴方と一緒にいられるだけで私は幸せなの そんなこと言わないでよ ぼくの醜い欲望も、君を受け止めきれない心の狭さも 全部わかっているくせに どうして泣きそうな顔で笑うの いつかきっと君から逃げ出すぼくのことも 君は知っていて、知っているからこそ まるで限られた余命を生きる花嫁のように 白い薔薇を胸に抱くんだ 猫は

          聖良

          「私の名は聖良。麻耶を守るためのみに存在する別人格です。 今日は特殊なケースだったので、久々に駆り出されて出てきました。 でもご安心を。この肉体も精神も、すぐ麻耶にお返ししますから。 もうしばらく空気とやらを吸わせてくださいね、何せ久方ぶりなもので。」 離婚調停の帰りの電車の中で、我が娘は見たこともない笑みを浮かべながら 瞳に異様な眼光を宿しつつ、私に笑い掛けた。 話し合い、というか泥試合としか例えようのない調停の間中、 本来ならか弱く脆い精神障害者である娘の、堂々たる意志の

          贖罪

          ごめんで済むなら警察は要らないから 私にしか使えない言葉を探すことにしました。 そんなことも出来ずして、どうして詩人など名乗れましょうか。 でも、宝探しはいつだって困難を極めます。 泳げないくせに、広大で深い海に潜って たった一欠片の宝石を取って来なければならないほどに。 だけど、もしそれがあなたの心を再び開く鍵となるのなら、 私は命など顧みず、荒波の海へと飛び込みましょう。 対価に見合わない愚かな行為かも知れない。 でも私の記憶の中に溢れるあなたの笑顔が、 私の背中を押すの

          小指の爪の先ほどの希望

          もし、神さまが私に笑いかけた日があったとするならば あの日以外にはありえないだろう。 着ていたワンピースも、履いていた靴も、つけていた下着すら はっきりと覚えている。 あなたがとても広くてきれいな公園に、私を誘ってくれた日。 浮足立っているのがバレないように、私はちょっと そっけなかったかも知れない。 一緒に歩いていると、なぜだろう、あなたにお姫様抱っこを されているような気分になった。 重すぎる私の心をひょいと抱えてスタスタ歩いて行けてしまう。 あなたはそんな人だったから。

          小指の爪の先ほどの希望

          自由と責任

          「君の人生はハンディから始まった。 その事実はもうどうやっても消えることはない。 でもそれを乗り越えて幸福を求めていく自由と責任が 君にはある。それを忘れないで。」 彼はそんな風に語った。 自由と責任なんて、精神障害者である私には 笑っちまう言葉だ。 幼い頃、父親に性的虐待を受け、解離性同一性障害を 小学生の頃に発症し、高校の時、摂食障害を併発、 そして二十歳の頃うつ病まで背負う羽目になり、 今もその地獄は続いている。 どこをどう探しても、幸福なんてものは見当たらない人生だ。

          自由と責任

          ちょっとコンビニ

          ちょっとコンビニ行ってくる 泣き腫らした顔で君は笑った 鍵を置いていく理由にしては あまりにも下手くそだった 部屋着のまま財布だけ持って どこに行く当てがあるというの 男なら何としても引き止めろよ 脳からの命令を心が無視した 初秋の大都会で 凍え死ぬことはまずありえない でもさ 違うだろ そういう問題じゃないだろ 君の心に布切れひとつ かけずに追い出した僕は 今宵何の罰も受けずに のうのうと部屋に守られて 君はどこでもないどこにもない場所を彷徨って それは全部僕が引き起こした

          ちょっとコンビニ

          たばこ

          スカイツリーのてっぺんに 雲が霞んで お空を目指した人間たちを 神さまが嗤ってる うふふ わはは 可愛いものを見たときに 思わず漏れる声だ わたしはいつかあそこに昇って 煙草を1本だけ吸って そして何事もなかったように 帰って来るような人間だから 神さまには微笑んでもらえないね 一体いつから お月様と夜景は 勝負なんてするようになったのかしら やけを起こしたネオンはその牙を どこにも行けない人たちに突き立てて 私の頬にかかる血しぶきは きっといつか私自身のものになって そんな

          その引っ越しは絶望

          39年間暮らした家と土地を 売却することになった 私はこの街しか知らない 私はこのうちしか知らない 籠の鳥のようだと思われるかもしれないが 精神を病んだ私にとっては 籠の中で守られているほうが得策だった 引っ越し先は夫の実家 義母の住む狭苦しいアパートに 居候の身となる 肩身が狭い 他人が怖い 私は生まれた時から3階建ての 完全にプライバシーの確保された ゆとりのある空間しか知らない 義母と夫と私の3人で 1DKのアパートにひしめくことになるのを想像しただけで 冗談じゃなく発

          その引っ越しは絶望

          打ち水

          「一寸、休んで行かれませんか。」 8月の炎天下、朦朧とする意識のままに振り返ると 陽の光に眩しい白い歯に出会った 店先で打ち水をしている店員は 彼の周周囲だけ気温が2,3℃低く見えるような 不思議なオーラを纏っている 見ればとても感じのいい喫茶店だ そんな風に誘われたら断れないじゃないか 逃げ水から逃げるように、私は店内へと入った 時が止まったような、レトロな純喫茶だった 古いものには目がない私は 不可思議な既視感を覚えて、それはとても心地よかった 汗だくの私に、彼は冷たいお

          水子

          孤独よ 孤独 私を呼んで その掌を 手向け給う 貴方の中に 私を孕み 激流のどぶ川へと 流しておくれ 流しておくれ 汚物にも劣る 細胞の肉塊 人間じゃない 命じゃない 名前もない 言葉もない 嗚呼そうか だからこんなに淋しいのか だからずっと ずっとずっとずっと 淋しかったのか

          猫が死んだ日

          またあの日がやって来る 長く清流にさらされた岩のように あの朝、君は冷たく固くなっていた 大きく引き伸ばした写真は 部屋のどこからでも見える位置に 飾ってある 命日 今飼っている猫が やたらとソワソワし始める不可思議な涙色の1日を 今年の私はどう生きようか  生きてしまうことを どう生きようか

          猫が死んだ日

          責任者不在につき

          あなたに叩き込まれたベジファーストは 今でもきっちり徹底していますよ 友達には呆れられるくらいに でも、他人の目なんかどうだっていいのです 私を見つめるあなたの目がどこにもなくなっても 私はあなたに好かれることばかりに心血を注いでしまう あなたの気に入りそうな服 あなた好みのメイク あなたがそそられるであろう仕草 全部が全部、幽霊相手にバットを構えるかの如く 不毛で無駄な時間を生きています あなた色に染まったまま 時は止まってしまった 私はもうあなた色でしか生きられないのです

          責任者不在につき