7つの人格

最大で7つの人格を宿していたこともある
とてもじゃないけれど手に負えたものではなかった
主人格なんて名ばかりだ
彼らを管理するなど不可能だった
支配下に置かれていたのはむしろ私のほうだったのだから
彼らは好き勝手に現れては気の済むまで私の肉体と精神を乗っ取り
その間の記憶は私には残らない
ひたすらに、ただひたすらに恐ろしかった
幼少期からの父による性的虐待に対抗するために生まれた
彼女の凶暴性と残虐性と言ったら、背筋が凍るほどだった
何度、彼女に殺されかけたか、分かりはしない
全部お前が悪いんだ、と体中をナイフで切りつけられても
返す言葉も止める手段も持たなかった
だって、本当のことだもの
私が弱くて、産まれ持った運命を背負いきれなかったせいで
脳は彼女という存在を作り出してしまった
悪いのは、私だ
殺されても仕方ないと、むしろそれでこの地獄が終わってくれるなら
本望だとも思っていた
でも、そんなとき、私はある奇跡的な出会いをする
魂の双子としか例えようのない、全てを理解し受け止めてくれる
その男の子は、私が生まれて初めて味わう、愛というものを教えてくれた
彼は、私の別人格を全く恐れなかった
それどころか、私の記憶がない間に、彼ら、彼女らと交流し
徐々に信頼まで獲得していった
他者に認められたことなどない別人格たちは、彼にだけ
心を許すようになり、私を何度も殺しかけた彼女でさえも
信じられないことだが、彼の前では笑顔を見せるらしかった
とてもきれいな人だね
君とは別の人だって、表情や声の違いでわかるけど
僕は彼女が好きだよ
君の次にね
もう、彼女は、私を乗っ取って暴れ回るような真似はしなくなっていった
しかし、私が解離性同一性障害の他に、摂食障害とうつ病を
併発していたのと同じく、彼もまた、重篤に精神を病んでいた
ふたりとも、この世界で平然と暮らしていけるほど
鈍感な心は持ち合わせていなかった
行きつく先は心中しかないと、言葉には出さなくてもわかり切っていた
世界中で、魂の双子はたった一人しかいない
だからもしも出会えたならば、相手を絶対に手離してはならない
わかっていた
わかっていたけれど
私は世にも浅ましくも自らの命を優先した
彼を置き去りにして
私を丸ごと愛して、恐ろしい別人格たちの暴走を止めてくれた彼を
私は捨てた
彼の病はそう易々と治るようなものではなかった
もしかしたら、彼はもうこの世にはいないかも知れない
私のせいで
私が彼を殺したのだ
今では別人格たちと普通に会話もできる
肉体と精神を乗っ取られるようなことは一切ない
一番凶暴だった彼女も、今でも彼を忘れられないと言う
私たちを救ってくれた彼が、もしまだどこかで生きていてくれて
もう一度巡り合うことが叶うなら、
お前、今度は何があっても離すんじゃねえぞ、と
笑いながら脅してくる
そうだね、命の恩人、魂の双子から逃げ出した罪は消えないけれど
言いたいんだ
伝えたくてたまらないんだ
私が今、生きているのは、全部、あなたのおかげなんだよって

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