わたがし

女の子ってなんでこんなに柔らかいんだろう
君は風が吹けば飛ばされてしまいそうにか細いし
おっぱいだって小さいのに
抱きしめるとほら、綿菓子みたいに甘くてあったかいんだ
貴方と一緒にいられるだけで私は幸せなの
そんなこと言わないでよ
ぼくの醜い欲望も、君を受け止めきれない心の狭さも
全部わかっているくせに
どうして泣きそうな顔で笑うの
いつかきっと君から逃げ出すぼくのことも
君は知っていて、知っているからこそ
まるで限られた余命を生きる花嫁のように
白い薔薇を胸に抱くんだ
猫は死に様を誰にも見せないように
死期を悟ると独りでにどこかへ消えるという
きっと君もそうなんだろうね
ぼくを傷つけないように、ぼくが傷つかないように
自分ひとりが傷つくように、
さよならさえ言い出せないぼくに代わって
一人どこかへ去って行くんだろう
それなのに、それなのに
どうして幸せだなんて言うの
どうしてそんな言葉をぼくにくれるの
美しい思い出だけを残して
死にに行く猫の後ろ姿を
突っ立って眺めているだけの
ぼくはそんな男なんだよ
君の涙を、ぼくは一度も見たことがない
君はそんなものを他人に見せるほど誇りのない人ではない
でもほんとは知っている
一人でいるときに、君がどれほどの涙を流しているか
ぼくにそれを拭わせるような真似を君は決してしない
きっと最後までしないんだろうね
誰よりも繊細で、か弱く脆い心を携えながらも
君はぼくよりはるかに強い人だから
あなたに出会えただけで、私は幸せだったわ
ぼくの腕の中で、君はそう言ってのけた
やめてよ
よしてくれ
ぼくにはそう言われる価値など無い
君の美しい微笑みが、涙で滲んでいくのを
こらえることなどできなかった
君はそんなぼくの頭を優しく撫でながら
愛してたわ、と囁いた
さよなら、ぼくの柔らかくて甘い綿菓子
君を失っても、ぼくは死んだりしないし
毎日腹が減ったらご飯を食べて、平然と生きてゆくのだろう
そしていずれまた誰かと恋をし、抱き合って
緩やかに君のことを忘れてゆくのだ
そういうぼくを、君はぜんぶわかっていた
わかっていて幸せだと口にしてくれた
強い風が吹いた
はっと気づいて顔を上げた
でも、もうどこにも君の姿はなかった
風が吹けば飛んでしまいそうな女の子だなんて
みくびってた僕は、どこまでも馬鹿野郎だ

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