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ソローキンさんによるロシアの近未来「テルリア」

<SF(156歩目)>
ソローキンさんの今までの作品を読まれた方におススメなぶっとんだ作品です。

テルリア
ウラジーミル・ソローキン (著), 松下 隆志 (翻訳)
河出書房新社

「156歩目」はロシアのベストセラー作家のウラジーミル・ソローキンさんの大作。作品内に出てくる謎の物質「テルル」(鉱物で、おそらくロシアのアルタイ地方で産出されれる特殊な鉱物)にまつわる50の短篇です。

私は、この謎の物質が、最初に読んだ「吹雪」の中に出てくる究極の麻薬物質の「キューブ」とか「ピラミッド」を思い出させてくれたが、「キューブ」とか「ピラミッド」と違い、直接「釘」を頭蓋骨に打ち込む麻薬物質であること。

※うわっ、あ~激烈に痛そう。。。それも「大工」に叩き込ませるとは。。。

そして文中でも失敗すると死んでしまうと。。。いくら何でも、こんな「死」と引き換えに求める麻薬物質なんて。。。と思ってしまうところが日本人的。

この作品が読まれるロシアでは、tattooと同じく「うわっ」が無い世界でもあると感じて、そもそもの文化や気質の違いを感じました。
それにしても、ソローキンさんの作品では麻薬の描写が多い。。。

また近未来のSFに分類したのは、ソローキンさんのロシアの分割が描かれているから。

20世紀のナショナリズムに反して、巨大な国家を統一した「禿」の役割が描写されている。ある「禿」は帝国主義により収奪による統治をおこなった。またある「禿」はイデオロギーによる啓蒙と恐怖で統治をおこなった。
そしてある「禿」はイデオロギーによる統治をやめた。そしてある「禿」は自分の信念で他者になんと言われても強権で統治をおこなった。

ロシア・ソ連の統治者で「禿」は誰に当たるのか?容易にわかる内容ですが、ここまではっきり描いて禁書にならずに、公開されているのが驚きです。

ロシアの古典文学の世界でも、共産主義ソ連でも、ロシア帝国でも、今のウクライナ侵攻をしているロシアでも、色々なロシア人像が容易に想像できるが、これだけ巨大な国ですから、一つのステレオタイプで切り出せるわけでもない。

色々な「ロシア的な」があるのですが、それがソローキンさんの世界では既に分割されている。作中では、おそらく10~20程度の国家に分割されているのですが、そのキーワードが参考になる。

民族ではなく、宗教なのか?主義なのか?これはまだまだ予断を許さないのですが、それぞれが「資源の収奪」で国家として成り立ちそうなのが、周辺諸国からみたロシア的なものの本質だと感じる。

「資源」をソローキンさんも見ているが、「鉱物」等々の「資源」に限定して考えるところにロシア的な悲劇を感じる。

「資源」を「人材」と考えていくことが可能になれば、多民族・他宗教・多資源のロシアはまた統一されていく気がします。
ただ、また私たちの想定を大きく超える「禿」が登場するような。。。

おいおい、本当に「禿」なんて外見的な特質で、民衆が語るようになるなんて、それはまた不幸になる気がします。
国民や人類にとっての幸福を考える「禿」の登場が必要ですね。

この作品は、文体による「麻薬物質」が大量に含まれている、簡単に読めない近未来SF作品です。

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