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2020年10月の記事一覧
『還りみちを臨む、』 #教養のエチュード賞
わたしをはじめて包んでくれた温度のことを記憶にあるかと尋ねられればそれはすこし難しくて、その実のところはあなたに訊くのが正しいのだろうと思う。あるいはあなたもどうだろうか、夏が終わり秋の深まる気配が日々色濃くなるその頃から、あなたはわたしをどれだけ抱きしめてくれただろうか、どれだけ、包んでくれただろうか。はじめての記憶、それはひどく曖昧で、だからいつか答え合わせというか、ずっとずっと過ぎ去った昔の
もっとみるBLUE ENCOUNT「ユメミグサ」が包んだ青春の情景
生きている中で、いくつもの「さよなら」が通り過ぎた。
前を向けよ。大人になれよ。どこからともなく聞こえてくる声に押し潰されそうになる。
次第に、未練や後悔はかっこ悪いものだと擦り込まれていったように思う。年齢を重ねるほど、経験を積むほど、見えないしがらみは強くなった。
人間は大人になるにつれ、なにも感じないフリがうまくなっていくようだ。それは、時に生きやすさにも繋がるのかもしれない。けれど、本
また会える【恋愛小説】 #リライト金曜トワイライト
#リライト金曜トワイライト
あれは僕が広告会社に勤めていたころの話。
関連会社が入っている旧いビルの長い廊下の端っこで、資料らしき本を両手にかかえている女性に目が留まった。忘れられない顔がそこにあった。先方も驚いた面持ちでこちらを見ていた。
「え?なんでココにいるの....」
それがどちらの声だったかは忘れてしまったが、どちらの言葉であっても差支えがないほど、それはお互いにとってシンクロし
【あなたを抱き寄せて、もう一度】 #リライト金曜トワイライト
人生の最後に誰を想い出すだろう。
僕の手を離れた、あの紙ヒコーキは、終わっていく時間と近づいてくる未来の中で、まだ漂っているのだろうか。想い出そうとしても、放物線を描いて飛ぶ紙ヒコーキの軌道から記憶は逸れてしまう。その追憶の先にあるのは、沈む夕陽に向かって佇む、あのヒトの小さく、柔らかく、悲しく、寂しげな後ろ姿だけだ。手を伸ばさなきゃ、と。いや、本当にそうするべきなのか、と。そう、逡巡しているう