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本のはなし

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読書記録や、本をめぐるエッセイをまとめています。
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最近読んだ本たち(2025年1月分)

最近読んだ本たち(2025年1月分)

年初はいつも、日付を手書きするときに誤って前年の数字を記入してしまう。去年も「2023年っと……、ああー! もう2024年になったんだったあー!」と騒いだことが何度かあった。

それが、今年は元旦あたりからするすると「2025年」と書き込めている。日記にもノートにも。

生きるのが上手になったのか、妙な器用さを身につけただけなのか判断しかねるけれど、修正の手間が省けるのは助かる。

『ホワイトカラ

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最近読んだ本たち(2024年12月分)

最近読んだ本たち(2024年12月分)

「とうとう2025年になっちゃったよ」と夫に言ったら、たしなめられた。「もう新年早々、行く日を惜しむのはやめなって」だそうである。

「ほんとですねー、そうですねー」と返事をしたものの、毎日が過ぎるのは早いと嘆かぬ自信がない。だって、もうお正月休み終わりじゃないですか。

と、ぼやきはこのくらいにして。さあ、今年も頑張っていきましょう!

『ワイルドサイドをほっつき歩け ハマータウンのおっさんたち

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最近読んだ本たち(2024年11月分)

最近読んだ本たち(2024年11月分)

なにかに取り憑かれたように「時が過ぎるのは早い」と言い続けているこの冒頭部分。だって早いんだもん。

もうすぐ2024年が終わりだなんて信じない。夫にそう言ったら、「まあ、言ったところで2025年は来るけどな」とあしらわれた。どうにも否定できない事実である。完敗、乾杯(下戸ですが)。

『おぱらばん』 堀江敏幸

はじめてタイトルを目にしたとき、どういう意味か理解できなかった。おまじない? 隠語?

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最近読んだ本たち(2024年10月分)

最近読んだ本たち(2024年10月分)

10月もあわただしく過ぎていった。
この出だしももう定型文に近い。

最近思うのだけど、余暇を存分に味わいながらゆったりと生きていられる人って、現代の日本にどれほどいるのだろう。

わたしの時間はもちろん、いつもせかせかと過ぎていってしまう。手もとにやって来たと思ったら、次の瞬間にはもういない。
そう、風のように。

……と、詩的なことを言ってみたくなった。
秋だからね!

『方舟を燃やす』 角田

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最近読んだ本たち(2024年9月分)

最近読んだ本たち(2024年9月分)

なんだかですね、毎月同じことを言ってる気がするんですよ。「先月もあっという間に過ぎた」って。

40代になると時間は疾く過ぎゆくと聞くけれど、こういうことだろうか。いや、認めたくない、しかし毎日が早いし速いぞ……、とぶつぶつ言っている最近。

『ひとりでカラカサさしてゆく』 江國香織

尊敬する書き手さんの記事でこの本が紹介されているのを読んですぐ、書店に入ってしまった(たまたま用事で高島屋にいた

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万字固め、られる

万字固め、られる

万城目学『ザ・万字固め』を読んだ。

万城目学さんの作品といえば、わたしにとっては『プリンセス・トヨトミ』。小説はもちろん読んだし、映画も観た。大阪人としては「ほげー」と唸るしかない世界が繰り広げられる(もちろん非大阪人のみなさまにもおすすめ!)。

はじめての万城目エッセイに選んだこの『ザ・万字固め』は、わたしに昔からの友人たちのことを思い出させてくれた。

わたしは高校3年生のとき、某予備校の

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あれは、去年のカレンダー。

あれは、去年のカレンダー。

「去年の暦と同じで何の役にも立ちゃしない」

そんなふうに話す気っ風のいい女性に出会った。名を瑶子さんという。

本のなかの話だ。

このあいだまで、有吉佐和子『悪女について』を読んでいた。有吉作品の持ち味である、世情を映した世界観とエンタメ性を兼ね備えた小説で、ドラマを観ているようにおもしろく読めた。

そのなかに登場する烏丸瑶子さんはこう言う。

烏丸瑶子さんは旧華族という設定だ。世が世なら庶

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最近読んだ本たち(2024年7月8月分)

最近読んだ本たち(2024年7月8月分)

このところ、夜のむわあっとした暑さがましになった。秋の気配をわずかに、しかし否応なしに感じてせつない。このあいだまで「暑い、暑い」とぼやいていたのに。

7月後半に娘たちが夏休みに入り、あわあわと過ごした約1か月、本は空いた時間を見つけて読んだ。鶏のさっぱり煮をつくるそばで文庫本を開いたり、お風呂の準備が整うまでの時間に読んだり。

なんだか、こっそり本を読んでいた受験生の頃を思い出した夏だった。

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読んで、つなぐ

読んで、つなぐ

すっかり時間が経ってしまったけれど、7月はじめに堀江敏幸『雪沼とその周辺』を読み終えた。雪沼という小さな地方都市に住む人々の生活と、心の表情が描かれる短編小説集だ。

実は堀江敏幸さんの作品を読むのははじめてだ。その穏やかな筆致と美しい日本語をここちよく感じながら読み進め、ふと思った。

「雪沼って、実際にある地名なのかな」

自然現象の名を冠した地名は案外少ないらしいことを、昔、ある小説で知った

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最近読んだ本たち(2024年6月分)

最近読んだ本たち(2024年6月分)

6月もあっという間に過ぎていったけれど、マイペースに読書できた。夜はだいたいソファに丸まって本を読むわたしのことを、家族は「ダンゴムシ化している」と言う。

わりと面倒くさいダンゴムシだと我ながら思う。どうせならかわいくておちゃめなダンゴムシになりたい。

『すべて真夜中の恋人たち』 川上未映子

本屋さんで一目惚れして購入した一冊。文庫版は、夜の静謐さを映した暗いブルーグレーに、光がちらつくよう

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その気配を感じたから

その気配を感じたから

あるべきじゃないものがはさまっていた。

このあいだ、子どもの頃に大好きだったエッセイ集『まず微笑』を記事のなかで取り上げた。

三浦朱門、曽野綾子、遠藤周作の各氏によるこの本は、わたしが小学校の頃に繰り返し読んだ一冊だ。キリスト教系の小学校に通っていた当時、シスターに薦められて、母に買ってもらった(著者のお三方はカトリック信徒)。

「あのエッセイがまた読みたいなあ」、そう思ったのだけれどもう新

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きらきらとうつうつと、めらめらと

きらきらとうつうつと、めらめらと

西加奈子さん『サラバ!』を読み終えた。わたしは読書記録のなかでできるだけネタバレをしないように心がけているが、これくらいは言ってもいいだろう。

この本は、一人の少年が成長していく過程を描いた、強烈な、そしてせつなくもまぶしい記録だ。なんと充実感のある作品だったことか、とまだぼんやりしている。

物語の中盤でわたしがいちばん心奪われたのは、主人公である歩くんが中学に入った頃の描写たちだ。学校生活が

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最近読んだ本たち(2024年5月分)

最近読んだ本たち(2024年5月分)

2024年5月の5冊5月前半は落ち着いていて、本を読みつつゴールデンウィークを満喫できた。

後半は忙しかったので、読書はやや失速。毎月言っているけれど、「もっと読みたいなあ」と思った。

ひと月に50冊読みます! なんていう方はどんな暮らしをしていて、どんなふうに読んでいるのだろう。羨ましい……!!

『傲慢と善良』 辻村深月

ベストセラーになった小説をわたしがタイムリーに読めることは少ない。

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運ばれるわたし

運ばれるわたし

読書が能動的な営みであるかと聞かれたら、わたしは「ノー」と答える。かといって、読み手は受け身に徹しているかというとそうでもない。

先月、『夜ふかしの本棚』という本を読んでいたら、朝井リョウさんが『雪沼とその周辺』(堀江敏幸)を紹介されている箇所にあたった。

そこには、好きだと感じた文章はその人を運んでくれるという意味のことが書かれていた。優しくも鋭い読書論が、心に残って仕方がない。

『夜ふか

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