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散々な時の撤退勇気で認知の歪みを修整

「考えても分からないこともあるけど、散々でも前に続く道の先に望みはある」

泣かないでという意味のJ-POPの有名曲が、今の日本環境に当てはまる。

努力しても成長実感がなく、急激なデジタル環境に適応できない人達が病んでいく時代。


「フォローワー数、いいね」が可視化された多数のSNSアプリを、スマホという小さなコンピュータ脳を持ち歩いて管理している。


スティーブジョブズが2007年にiPhoneを発表してから世界は大きくデジタル化したが、ある程度不便な世界も悪くはなかった。


自己実現が他人からの承認によって、左右されやすくなっている時代にうつ病となって泣きたくなる人も多いのではないかと思う。

「脳卒中、がん、心疾患、高血圧性疾患、糖尿病、うつ病」という病は、誰でも突然発症することがある。

どんなに気をつけていても、人間が生物である限り常に病気の遭遇は隣り合わせである。

病気だけではなく「人災、天災、学業挫折、受験挫折、就職挫折、恋愛挫折、結婚挫折、老化、愛する人達との死別」など、人生は残酷な現実が沢山ある。


前を向いて頑張ることも大切であるが「散々な時」を過ごしているなら、時には本気で休息を確保する勇気が必要である。

進むことよりも、撤退を決断することのほうが勇気が必要である。

撤退を決断して徹底的な休息確保と、後片付けをする行動で認知の歪みが変わることはある。

休息と環境調整をする行動は、立派な認知行動療法である。

散々な時もあるけれど、ギャンブルの如く稀に幸せな時を与えられるから「人生は残酷で美しい」のかもしれない。





君と僕は、カフェの片隅にいた。

「ねえ、最近どう?」僕が尋ねた。

君は少し間を置いて、ため息をついた。

「正直、疲れてる。なんか、ずっと頑張ってるのに、前に進んでる気がしないんだ。どうしてみんな、あんなにキラキラしてるんだろう。SNSとか見てると、自分がどんどん小さくなっていくみたいでさ」

僕は君の言葉に頷いた。目の前のカフェラテのスチームがゆっくりと消えていくのを見ながら、言葉を選んだ。

「それ、分かるよ。今の時代、自己実現っていう言葉がよく出てくるけど、実際は他人からの承認がないと、それが成立しないように感じるよね。いつの間にか、SNSでの『フォロワー数』や『いいね』が、僕らの価値を決めてるみたいに思えてくるんだ」

「そうなんだよ。頑張っても、何も手応えがない感じがする。で、みんなに置いていかれてる気がして、どんどん落ち込むんだよね」

僕は少し苦笑した。「でも、そもそもこの状況、誰が作り出したんだろうね。iPhoneが登場してから、たしかに世界は一気にデジタル化して、便利になった。でも、その便利さが本当に僕らにとって幸せをもたらしてるのかどうか、考えることが少なくなった気がするよ」

君は視線を少しだけ下げ、静かに頷いた。「そうだね。スティーブ・ジョブズは世界を変えたけど、あの時のままの、不便な世界でもよかったのかもね」

僕はカップを口元に持っていき、少し冷めたコーヒーを飲みながら、君の言葉を受け止めた。時折、外の風景に目をやると、街中の人々がスマホを片手に歩いているのが見える。

「結局、僕らが持ってるのは、スマホという小さなコンピュータで、それをずっと頭の中に持ち歩いてる感じだよね。常に接続されてる。オフの時間がなくて、だから、気持ちもずっと走り続けてる。疲れるのも無理はないんだ」

「うん…」君は視線を窓の外に移し、少しだけ笑った。「前に進むことが大事だって、よく言われるけど、時には立ち止まって休む勇気が必要だよね。撤退を決断することって、むしろ進むよりも難しいんだなって最近思う」

僕は深く頷いた。「それは確かにある。努力しても実感がないときは、あえて進むよりも、一旦引いてみることで、視点が変わることもあるよ。休息と環境調整って、ただの逃げじゃなくて、むしろ生き延びるために必要な戦略なんだ」

「確かに。散々なときって、どうしても頑張り続けるべきだって思っちゃうけど、時には、ちゃんと自分を守るために撤退することも大事だよね」


「でもさ、撤退って言っても簡単じゃないよね?」
君は少し眉をひそめ、考え込むように言った。「周りはみんな『前に進め』って言うし、止まることは失敗みたいに感じる。特にSNSで成功してる人たちを見ると、休んでる暇なんかないんじゃないかって思っちゃうんだよ」

僕はしばらく黙ったまま、テーブルの上を指で軽く叩いた。まるでそのリズムに合わせて言葉を探しているようだった。「そうだよね…社会のプレッシャーって強いよね。何かに成功したり、目に見える形で成長してないと、まるで存在価値がないみたいに感じる。でもさ、そんなのって本当に正しいのかな?」

君は首をかしげた。「正しいかどうかなんて、分からないよ。でもみんながそうしてるんだから、きっとそれが当たり前なんだって思っちゃう。それに、もし休んだら置いていかれる気がして怖い」

僕は微笑んだ。「君が休んだら?それでも世界は続くよ。僕たちがどんなに頑張っても、地球は回り続ける。自分だけが全てを背負ってるような気分になることはあるけど、実際にはそんなことはないんだよ。だから、少し肩の力を抜いてもいいと思う」

君はため息をついた。「分かってはいるんだけどね。でもさ、病気になったり、うつになったりするのって、どうしても怖いんだ。周りの人たちが倒れていくのを見ると、次は自分なんじゃないかって」

僕は真剣な顔で君を見つめた。「その恐れは、今の社会が作り出したものかもしれない。今の世の中、ストレスが強すぎて、誰でも突然病気になったりする。うつ病や心疾患、糖尿病なんて、以前はもっと年齢が高くなってからの話だったのに、今は20代、30代でも普通に起こる。だから、君の不安は正しい。でも、それでも…」

「それでも?」君が僕の言葉を促すように尋ねる。

僕は少し息をついてから続けた。「それでも、僕たちは『休むこと』をもっと大切にしなきゃいけないんだと思う。病気や失敗は、誰にでも起こり得るし、それを避けることはできない。でも、もし心のバランスを取り戻すために、自分自身に休息を許すことができたら、病気になる前に回復できるかもしれない。撤退っていうのは、ただ後ろ向きなことじゃなくて、未来のための選択なんだよ」

君はしばらく黙っていた。そして、ふと小さな声で言った。「…それって、難しいよね」

僕は笑った。「そうだね、すごく難しい。でも、今の時代こそ、それを学ぶべき時なんじゃないかな。生きるために、立ち止まって、見つめ直すことが必要なんだ」

「でも、どうやって?」

君の問いに、僕は一瞬考え込んだが、すぐに答えた。「まずは小さなことからだよ。スマホを少し置いてみるとか、SNSを一時的に閉じてみるとか。周りと比べるのをやめて、自分が本当にしたいことに時間を使うんだ。散歩に出たり、本を読んだり、ただ静かに過ごすこともいい。そんな小さなことが積み重なって、少しずつ自分のペースを取り戻せる」

「でもさ、そんなことしても、結局何も変わらないんじゃない?」君は不安そうに聞いた。

僕はゆっくりと首を振った。「それは違うよ。小さな変化が、大きな結果を生むことだってある。少しだけ自分に優しくなってみる。それだけで、心の中に余裕が生まれてくるんだ。疲れきってしまう前に、少しずつ修正していけるんだよ」

君はまた視線を下に落とし、しばらく黙って考え込んだ。「確かに…ずっと走り続けることはできないし、何かを変えるためにはまず自分が変わらなきゃいけないのかもね」

僕は頷いた。「そうだよ。君がどんなに優秀でも、無限に頑張れるわけじゃない。みんなそれを忘れがちなんだ。休むことも、自分を大事にすることも、実はとても勇気がいることなんだ」

「分かった…でも、やっぱり怖いよ。休んでる間に置いていかれるのが」

僕は少し微笑んだ。「それでも、休むことの方が大事だよ。だってさ、君が倒れたら、何もできなくなってしまう。走り続けることばかり考えるんじゃなくて、長く走るための準備をしなきゃいけないんだよ」

君はゆっくりと頷いた。「そうだね…まずは少しだけ休んでみる。それで、何が変わるか見てみようかな」

僕はその言葉に、少し安心した。「そうだよ、それが最初の一歩だ。散々な時期を乗り越えるためには、時には少し引いて、立ち止まることも必要なんだ」 


「休むことか…でも、休むだけじゃ、何も解決しない気がする」
君はコーヒーカップを両手で包み込み、視線を落としたままつぶやいた。

僕は少し考えながら答えた。「確かにね、休むことは解決策そのものではない。けど、解決するための準備なんだと思う。心が疲れてる時って、まともに考えられないし、何をしても空回りすることが多い。そんな時に無理に進もうとすると、余計に悪い方向に行くんだよ」

君は目を細めて、考えるように唇を噛んだ。「たしかに、そうかも。最近は何をしても楽しくないし、何かを始めてもすぐにやめちゃう。気持ちが散らばって、集中できないんだよね」

「そうだろう?」僕は頷いた。「だから、今はまずその気持ちを一度リセットするために、少し休息を取るんだ。何も考えずに、ただ自分自身を取り戻す時間が必要だよ」

「でも、休んでる間にもっと遅れちゃうんじゃない?」
君は不安そうに僕を見つめた。

「それが一番の不安だよね。周りがどんどん進んでいる中で、自分だけが立ち止まってしまうんじゃないかって。でも実際には、君が一度リセットして、再び歩み始めたとき、今まで以上に力強く進めるようになるんだ。人間は休んで回復する力を持ってるんだよ。だから、遅れを取るっていう考え方は、少し違うかもしれない」

「そんな風に考えられたら楽だろうな…」君はため息をついた。「でも、SNSとか見てると、どうしても焦っちゃうんだよね。みんなが楽しそうで、うまくやってるのを見てると、私だけが何か間違ってる気がして」

僕は深く息を吸い込んで、少し間を置いてから口を開いた。「SNSってさ、いわば他人の人生のハイライトを見てるだけなんだよ。誰も苦労や失敗をあえて公開しない。だから、他人が完璧に見えるんだ。でも、現実は違う。みんなそれぞれ、悩んで、迷って、立ち止まってるんだ。ただ、それを表に出さないだけでね」

君は少し目を見開いて、僕の言葉を飲み込むように黙って聞いていた。

「それに、他人と自分を比べる必要なんて本当はないんだよ。君の価値は、フォロワー数や『いいね』の数で決まるものじゃない。君が何を感じ、どう生きるか、それが一番大切なんだ。デジタルの世界では、目に見えるものが価値を持つように見えるけど、実際の生活では、もっと目に見えない大切なものがたくさんあるんだよ」

「目に見えないものか…たとえば?」君は少し興味を引かれたように顔を上げた。

「たとえば、人との繋がりだよ。本当の意味で信頼できる人との関係は、数や表面的な評価では測れない。家族や友達との時間、心から笑える瞬間、そういったものはデジタルには映らない。だけど、それこそが僕たちの心を支えるものなんだ。君が今感じている焦りや不安は、周りの評価に引っ張られてる部分が大きいと思うけど、それを少しずつ切り離して、本当に大切なものを見つめ直す時間が必要なんだと思う」

君はその言葉にゆっくり頷き、再び視線をカフェの外に向けた。そこには、スマホを手にした通行人が絶え間なく行き交っている。

「でも、現実的に言うと、仕事とか生活とか、全部を投げ出して休むなんて無理じゃない?」

僕は少し笑いながら言った。「確かに、全部を放り出すのは難しいよね。でも、何も大げさに考える必要はないんだよ。例えば、毎日30分でも1時間でも、自分だけの時間を作ってみる。スマホを置いて、本を読むとか、散歩に行くとか。それだけでも気分が変わるかもしれない」

「毎日30分か…それならできそうかも」君は少し前向きな表情を見せた。「少しずつでも、自分のペースを取り戻していけるかもしれないね」

「そうだよ。大切なのは、急がないこと。君が自分のリズムを見つけて、それを大切にすることが何よりも重要なんだ。周りに合わせる必要はないんだよ」

「そっか…少し肩の力を抜いて、自分を見つめ直す時間を作る。なんか、それだけで少し楽になった気がする」

君は微笑み、僕に感謝の目を向けた。

「その感覚が大事だよ。今は、頑張りすぎず、自分を労わることを覚えていけばいい。散々な時もあるけど、その先には必ず望みがある。君がそう感じることができたなら、それが一番の証拠だよ」

君は静かに頷き、再びコーヒーカップを手に取った。「うん、ありがとう。これからは少しずつ、自分のペースを取り戻してみるよ」

僕は微笑んで言った。「それでいい。僕も同じだよ。誰だって疲れたら休む必要があるし、時には撤退する勇気が必要なんだ。それを忘れずにいれば、いつかまた元気に前に進める時が来るよ」

君はその言葉に深く頷いた。そして、少しだけ表情が和らいだ君の顔に、これから始まる新しい一歩への期待が感じられた。


「でもさ、休んでる間に何か失うのも怖いんだよね」
君は再び不安そうに言った。「友達とか、仕事とか、失敗してしまうんじゃないかって…それが怖い」

僕は少し目を細めて考えた後、静かに言った。「失うことへの恐れか…それは自然な感情だよね。だけど、何かを得るためには時に何かを手放さないといけない時もある。休息を取ることは、今抱えているものを失うんじゃなくて、むしろそれを守るための方法なんだよ」

君は少し驚いた顔をした。「守るため?」

僕は頷いた。「そう。もし君が無理を続けて、心も体も壊れてしまったら、君が大切にしているものを守ることはできないだろう?休むことは、自分自身を守るためであり、周りとの関係を守るためでもあるんだ。短期的には不安に思えるかもしれないけど、長い目で見たら、休むことが君をもっと強くする」

君は少し考え込んだ。「…確かに、無理して失敗するより、少し休んでリセットする方がいいのかもしれないね。でも、それでもやっぱり怖いんだ。休むときって、なんだか一人ぼっちになった気分になる」

僕はその言葉に深く頷いた。「その気持ちはすごくよく分かるよ。現代社会は、みんなが常に忙しくしているから、静かな時間を持つことが逆に孤独に感じられるんだ。でも、本当の孤独っていうのは、人と繋がりがないことじゃなくて、自分自身を見失ってしまうことだと思う。君が自分と向き合い、自分を大切にできれば、孤独を感じることも少なくなるんじゃないかな」

君は少し黙って、僕の言葉を噛み締めるようにしていた。

「じゃあ、具体的にどうやって休めばいいんだろう?」
君は真剣な表情で尋ねた。

「まずは、小さなステップからだよ」と僕は言った。「たとえば、スマホを使う時間を制限するとか、SNSを見るのを控えてみる。そうすることで、外からの情報や刺激に振り回される時間が少なくなるし、少しずつ自分のペースを取り戻せる。あとは、自然に触れるとか、趣味に時間を割くとかね。今までやりたかったけど忙しくてできなかったことに少しずつ取り組むのもいい」

「でも、そんなことしても効果があるのかな…?」君はまだ半信半疑のようだった。

僕は優しく微笑んだ。「すぐに劇的な効果は感じないかもしれない。でも、続けることで少しずつ変化が現れるんだ。焦らず、自分を信じて少しずつやってみることが大事だよ。散々な時もあるけれど、その先にはきっと望みがある。だからこそ、休息を取ることも未来のための大切な一歩なんだ」

君は少し考えてから、静かに言った。「わかったよ。まずはやってみる。今のままじゃ、どこに向かってるのか分からないから、立ち止まってみるのも悪くないかもね」

僕は頷いた。「その気持ちが大事だよ。君は何も間違ってないし、前に進むことだけが正解じゃない。立ち止まって、自分を取り戻す時間を大切にしてね」

君は少し笑みを浮かべた。「ありがとう。なんだか気持ちが軽くなった気がする。これからは少しずつ、自分を大切にしてみるよ」

僕は微笑んで言った。「それができれば、君はきっと今よりもずっと強くなれる。散々な時もあるけど、その先には必ず望みが待っているんだから」



「さて、これからが本番だね」
君は意を決したように背筋を伸ばし、目を輝かせて僕に向かって言った。

「うん。焦らず、少しずつやっていけばいいよ」と僕は優しく励ました。

数日後、君は言ったとおり、スマホを少し手放し、デジタルな情報に振り回されないように意識的に行動し始めた。最初は難しかった。スマホが手元にないことが不安で、何か大切な情報を見逃している気がしたり、連絡が遅れてしまうのではないかという恐れが頭をよぎった。

でも、少しずつその感覚に慣れていった。君は、自分の時間を取り戻し始めた。


「今日は散歩に行ってみたんだ」
君が再び僕に話しかけたとき、少し笑顔が戻っていた。

「いいね!どんな感じだった?」僕は興味を持って聞いた。

「最初はなんだか落ち着かなくて、すぐに戻りたくなったけど、途中から風の音や木々のざわめきに耳を傾けていたら、少し気持ちが楽になった。何も考えない時間って、こんなに貴重だったんだね」

僕は頷いた。「そうだよ。自然の中にいると、普段感じているプレッシャーから解放されることが多い。風や草木の音に集中していると、今この瞬間だけに意識が向いて、他のことを忘れられるんだよ」

君は少し照れくさそうに笑った。「今までは、そんなこと全然気にしてなかったけど、少しずつ自分が変わっていく気がするよ。これって本当に効果があるんだね」

「もちろん。毎日の小さな変化が、大きな変化に繋がっていくんだ。休息も同じだよ。無理に進むんじゃなくて、一歩一歩、自分のペースでやっていけばいい。君がそれを感じられるようになったのは、すごく良い兆しだよ」

「でも、まだ不安もある」
君は少し表情を曇らせて言った。「たまにまた、SNSを見て焦ってしまうんだよね。みんなが楽しそうにしているのを見て、私もああならなきゃって思ってしまう」

僕は彼女の顔をじっと見つめ、ゆっくりと語りかけた。「それは完全に自然なことだよ。人間は他人と比べることで、自分の位置を確認しようとする生き物だから。SNSがそれを加速させてしまう。でも、忘れないで。君の価値は、君自身の生き方にある。他人がどう見えても、それは君にとっての基準じゃない。君が何を大切にしたいか、そこに焦点を合わせていくんだ」

君は深く息を吐き、頷いた。「そうだね。自分のペースを大切にするってこと、忘れないようにしないと」


その後も君は小さな変化を続けていった。デジタルな世界から少し距離を置き、自然と触れ合ったり、自分の好きなことに時間を費やすことで、少しずつ心のバランスを取り戻しつつあった。

そして、ある日、君は僕にこう言った。

「最近、少しずつだけど、自分が変わってきたのが分かるんだ」
君は微笑みながら続けた。「焦らずに、自分を大切にしながら進むって、本当に難しいことだったけど、今なら少しずつそれができるようになってきた気がする」

僕はその言葉に心から喜び、君の成長を感じていた。「そうだね。君は本当に頑張っているよ。何も大きな変化じゃなくても、その一歩一歩がとても大事なんだ」

君は静かに頷き、カフェの窓から外の景色を見つめていた。日差しが差し込む街並みを見ながら、僕たちはしばらくの間、何も言わずにその瞬間を共有していた。


「でも、これで全部解決したわけじゃないんだよね」
君は再び口を開き、少し遠くを見つめた。「まだ、時々ふとした瞬間に不安が押し寄せてくることがあるんだ。何もしていないと、どうしても自分が遅れているような気がして…」

僕はその言葉に静かに頷いた。「それは自然なことだよ。特にこの時代、常に誰かが進んでいるように見える世界にいるからね。SNSではみんな、成功や幸せな瞬間だけを見せるから、それが全てだと思ってしまいがちだ。でも、実際の生活にはもっと複雑な部分がある。それを忘れないで」

君は考え込むようにしていた。「そうなんだよね。でも、自分に言い聞かせても、どうしてもまた比べちゃうんだ。何か成果を出していないと、価値がないって思っちゃう」

僕は少し笑って言った。「成果がなくても、君には価値があるんだよ。何かを達成することが君の価値を決めるわけじゃない。君がここにいて、こうして考え、悩み、成長しようとしていること自体が、すでに価値なんだ」

「でも、そう思えない時があるんだよね」
君の声は少し曇っていた。

「分かるよ」と僕は静かに言った。「自分を信じることって、本当に難しいよね。特に、外からのプレッシャーが大きい時には。だけど、だからこそ自分の中に信じられる何かを見つけることが大事なんだ。それが趣味でも、友人との関係でも、自分の小さな達成感でも何でもいい。自分だけの価値を少しずつ見つけていくんだ」

君は少し沈黙してから言った。「小さな達成感…か。確かに、大きなことじゃなくても、何かできた時って嬉しいよね。そういう小さなことをもっと意識していこうかな」

僕は笑顔で頷いた。「それがいいと思うよ。小さな成功を積み重ねていくことで、自分への信頼感も少しずつ育っていくからね。大きな目標に向かって頑張るのも大事だけど、まずは日常の中にある小さな幸せや成功を見つけていくことが、君にとって一番の支えになるんじゃないかな」


「でもさ、やっぱり誰かに認めてもらいたい気持ちも捨てきれないんだよね」
君は少し照れくさそうに続けた。「人から評価されると、やっぱり嬉しいし、自信が湧くから。それって、依存しちゃダメなのかな?」

僕は真剣に考えてから言った。「依存することが悪いわけじゃないよ。人は誰しも、他人からの承認を求める部分があるし、それが生きる活力になることもある。でも、そのバランスが大事なんだ。人からの評価だけに頼りすぎると、他人の期待に振り回されるようになってしまう。だから、自分の中でも満足できる基準を持つことが重要なんだよ」

「自分の中で満足できる基準か…」君は考え込んだ。「それをどうやって見つければいいんだろう?」

「それは、君が本当に大切にしたいものを考えるところから始めるんだ」と僕は答えた。「人によってその基準は違うけど、君自身が何を大切に思い、どんなことに喜びを感じるかを探っていくことが大事だよ。それが見つかれば、他人の評価に左右されずに、自分自身に誇りを持てるようになるはずだ」

君は少し目を閉じて、深く息を吸い込んだ。「そうだね…少しずつだけど、自分が本当に大切にしたいことを見つけていこうかな。焦らずにね」

僕は微笑んだ。「その通りだよ。急がなくていい。君はすでに大きな一歩を踏み出しているんだから」


数か月が経過し、君は徐々に変わっていった。SNSを見る時間を減らし、自然の中での散歩や趣味に没頭する時間が増えた。以前のような焦りや不安が完全に消えたわけではないが、それでも、君の心には少しずつ余裕が生まれていた。

「ねえ、最近少し楽になった気がするんだ」
君はある日、僕にそう言った。「まだ不安はあるけど、無理に誰かと比べなくてもいいって、少しずつ思えるようになってきたよ」

僕は君の顔を見て、微笑んだ。「それはすごい進歩だよ。自分のペースを大切にするって、簡単なことじゃない。でも君はそれをやり遂げつつある。何がきっかけだったのかな?」

君は少し考えてから、静かに答えた。「多分…自分の中で何かが吹っ切れたのかもね。以前は、他人の目や評価が全てだと思ってたけど、そんなことないって気づいたんだ。自分の価値は、他人が決めるものじゃないって」

僕はその言葉に深く頷いた。「本当にそうだね。君がそう思えるようになったのは大きな一歩だよ。自分自身を大切にできるようになると、他人からの評価に振り回されることも少なくなる」

君は小さく笑った。「でも、もちろん時々はまだ不安になるけどね。完璧には程遠いけど、少しずつやっていこうと思う」

「それでいいんだよ」
僕は安心したように言った。「完璧を目指す必要なんてないんだ。僕たちはみんな不完全だからこそ、お互いに支え合って生きていけるんだよ」


「最近ね、また絵を描くようになったんだ」
君は少し照れくさそうに続けた。「子どもの頃から好きだったけど、ずっと忙しくて忘れてた。でも、少し時間ができたからまた始めてみたんだ」

僕は驚いて言った。「それは素晴らしい!どんな絵を描いてるの?」

君は目を輝かせて答えた。「最初は風景画とか、簡単なスケッチから始めたんだけど、最近は自分の感情を表現するような抽象画を描いてるんだ。色とか形で自分の気持ちを表すって、すごく解放される感じがする」

「それは本当に良いことだね。表現することで、自分の内面を整理できることってあるから。君にとって、絵を描くことが大切な自己表現の手段なんだろうね」

君は頷いた。「そうだね。自分の気持ちを言葉にするのが難しい時でも、絵を描くと少し楽になるんだ。これからも続けていこうと思う」


日々の中で君は、少しずつ自分のペースを取り戻し、新しい楽しみや安らぎを見つけていた。他人との比較や承認欲求に振り回されることが減り、君は自分自身の価値を少しずつ理解し始めていた。

ある日、君はふと僕に言った。

「ねえ、人生って本当に不思議だよね。思ってた通りにいかないことばっかりだし、時々全てが無意味に感じるけど、それでも小さな幸せを感じる瞬間がある。それが、人生の美しさなのかもしれないね」

僕はその言葉に少し驚き、でも心から共感した。「そうだね。人生には散々な時もあるし、辛いこともたくさんあるけど、それでも時々感じる小さな幸せが、すべてを支えてくれるんだよ。そういう瞬間を大切にできる君は、本当に強くなったと思うよ」

君は微笑んで頷いた。「ありがとう。でも、まだまだこれからだよね。焦らずに、自分のペースで進んでいこうと思う」

僕は静かに答えた。「そうだね。君はもう、自分自身を見失わずに歩んでいけるはずだ。どんなに辛い時でも、君は必ず乗り越えられる。だって、君には自分を大切にする力があるから」

君はその言葉を噛み締めるように、深く息を吐いた。


「散々な時でも続く道の先に望みがあること、絶望ばかりという認知の歪み修正作業」

僕たちが話し合ってきたことの核心は、困難な時にどう対処するか、そしてその中でも希望を見出すための視点の持ち方にある。君が感じていた「絶望ばかり」という認知の歪み――つまり、悪いことだけが目に入り、未来に対する期待や希望が失われる状態――は、多くの人が陥りやすいものだ。だが、その歪みは修正できる。

まず、「散々な時が続く」という感覚は、誰にでも訪れるものだ。人生には常に浮き沈みがあり、問題や困難が襲ってくる。それが一時的であることを忘れがちになり、「このまま永遠に続くのではないか」と思い込んでしまうことが、絶望感の元になる。しかし、本当はすべてが流動的であり、時間とともに変わっていく。過去の辛い経験も、振り返ってみれば少しずつ解決されていたり、自分自身が成長して乗り越えてきたことが分かるだろう。

この「認知の歪み」を修正するための第一歩は、現実の一側面だけを見ないようにすることだ。君が焦点を当てるべきは、良いことがまったくないわけではなく、小さな光や成功、幸せの瞬間が、どんな困難の中でも確かに存在しているという事実だ。君が話してくれた、自然に触れることでの安らぎや、絵を描くことで自分を表現できるようになったこと。これらは、散々な状況の中においても、前進の証であり、希望の一つだ。

次に重要なのは、絶望の中でも未来に向けて少しずつ進む力を持つことだ。君が見出したように、小さな成功や達成感を積み重ねていくことで、自己肯定感が少しずつ育っていく。そして、それは未来への希望に繋がる。希望とは、必ずしも「大きな夢を追い求めること」ではなく、日々の中に見つける小さな可能性や幸せを積み重ねることで育まれるものだ。

「散々な時でも、続く道の先に望みがある」という言葉には、現実を直視しながらも、未来に対する信頼が含まれている。君が体験してきたように、絶望にとらわれてしまうと、全てが暗く見える。しかし、少し視点を変えてみることで、そこには必ず次のステップが待っている。立ち止まってもいい、休んでもいい。むしろ、時にはその方が必要だ。でも、進む道の先に何かがあることを信じる力を持つことが、君にとって大きな支えとなるだろう。

絶望ばかりに感じる瞬間もあるが、それは人生の一部であって全てではない。その認知の歪みを修正し、日々の中にある小さな希望を見出すことこそが、君が前に進むための鍵だ。未来は、君がどう向き合うか次第で変わっていく。そして、その道の先には、きっと今は見えない「望み」が待っている。

だから、君は焦らずに自分のペースで進んでいけばいい。どんなに散々な時が続いたとしても、君はそれを乗り越える力を持っている。それは、君がこれまでに示してきた強さからも、確かに感じ取れるものだから。


悲しませないで、考えても分からない時もある。

散々でも続く道のどこかに、きっと小さくても望みはあるから…

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